「鎖の運命」
・13話「鎖の運命」
おはよ〜
おはよう〜
朝の学校。
いつもと変わらない朝。
いつもと変わらない校舎。
いつもと変わらない教室。
いつもと変わらない友達。
クリス「おはよ〜、ふ〜くん。」
冬「おはよぉ〜」
クリス「なんか眠そうね〜」
冬「いや・・・・低血圧で・・・・どうも麻は苦手なんだよね〜」
冬が頭をフラフラさせながら答える。
悠「ど〜せ、夜中まで小説書いていたんだろ?」
冬がやってきた。
冬「今が正念場なんだよ、つい・・・ね。」
悠「結局何時まで起きていたんだ?」
冬「ん・・・・・・4時かな?」
クリス「うわ・・・・・それ朝だよ・・・・・」
朝起きる時間が6時半なので、2時間半しか寝れていないことになる。
悠「おまえ、たださえ朝は弱いのに・・・・そんなことしてるとぼっくり逝くぞ!」
冬「もう行きたい・・・・お休み・・・・・」
パタンと机に突っ伏す。
クリス「おきなさ〜い」
冬「い〜〜〜や〜」
クリスは冬の肩をゆする。
悠「どちらにしても、お前は朝の号令をしないといけないから起きてろ〜」
冬「頭回らないんだよぉ〜」
キーンコーンカーンコーン・・・・・
クリス「あ、なっちゃた。じゃあ、またとでね。」
悠「ほら・・・しっかりしなさいよ!」
冬「うい〜」
音葉「・・・・・・・」
琴璃「・・・・・・・」
音葉と琴璃はそれを眺めていた。
1時間目―
冬「・・・・・・・何かを感じるのですが・・・・」
冬がボソッと喋る。
誰かに見られている。そんな気がするのだ。
音葉「・・・・・・・」
琴璃「・・・・・・・」
冬(なんだ?このプレッシャーは!!)
怒られているわけでもないのに冷や汗が出る。
熱くも無いのに額からは大量に汗が噴出す。
これでは集中して絵をこく事ができない。
仕方ないのでノートをとろうとするが、やはり集中できない。
冬「う・・・・・・」
冬はあたりを見渡すが誰もにらんでいる様子は無い。
クリスが視線を送っていたが、睨む様な感じではなかった。
気を取り直して、絵を描き始める。
・・・・・・・
・・・・・・・
まただ、
また誰かが睨んでいる。
しかし、この視線は睨むような悪意のある視線ではない。どちらかというと、探るような観察するような感じである。
冬「・・・・・・・」
ならば、こっちもその視線が分からないように見ればいいのだ。
すると冬は胸ポケットから手鏡を取り出してあたりを見始める。
冬「・・・・・・・・」
・・・・・・・・
いた・・・・
音葉「・・・・・・・・」
琴璃「・・・・・・・・」
二人の目は完全的に冬を向いている。
え?
悪い事をしたのか?
いや、昨日も、今日もこれといって何もしていないはずだ。
全然心当たりは無いはずだ。
じゃあ何で睨まれる?
ガタッ!
机においていた肘が抜けてバランスを崩す。
冬「おわっ!」
すると音葉も琴璃も我に返ったように黒板を見る。
冬「・・・・・・・・」
冬は体勢を立て直して鏡を続ける。
音葉「・・・・・・・」
琴璃「・・・・・・・」
昨日の人は彼なの?
昨日は絶対に冬と確信していた。
でも、今は自信がもてない。
あんなに怪我をしていたのに、無かったように消えている。
というより雰囲気が全然違う。
フユの雰囲気はもっとパリッとした凛とした感じだ。
しかし、冬にはそんな感じをまったく受けない。
温和か、暖かい感じを受ける。
まったく違うのだ。
知らず知らずのうちに冬を見入ってしまう。
琴璃「お姉ちゃん・・・・・」
音葉「あ・・・うん。」
今は授業に集中しなければ・・・・
しかし、集中できない。
圧倒的な力。
夜に映える黒いロングコート。
胸と背中に描かれている十字架。
張り詰めた空気。
すべてが音葉と琴璃を気にかけてしまう。
机の上にあるノートは真っ白。
シャープペンすら出ていない。
今日の日ほど集中できない日は無い。
先生の声が頭の上を掠めていく。
周りを見ると、いつもの光景だ。
いつもの授業風景。
なのに、納得いかない自分がいる。
いつもと変わらない冬。
そうして、放課後になってしまった。
冬「さようならつ!」
冬の号令が教室に響く。
あっという間だった。
学校で何をしたか分からない。
ただ、ずっと考えいただけ。
冬「ねえ、音葉?」
音葉「はい!」
突然冬が音葉の前に来た。
冬「わっ・・・・どうしたの?」
音葉「え・・・・どうしたって?」
冬「いや・・・・ずっと見ていたでしょ。」
冬は気づいていた。
音葉「え・・・・うん。」
覚悟を決めたように、冬を真っ直ぐ見る。
音葉「あなた、昨日の夜、何をしていたの?」
その声は真剣な声だった。
冬「え・・・小説書いていて・・・・知らない間に寝てたけど・・・・・」
音葉「とぼけないで!昨日一緒にいたでしょ!」
怒った感じで怒鳴る。まあ、イライラしていたのは確かだった。
冬「・・・・・・・・」
音葉「ねえ、答えてよ!」
琴璃「お姉ちゃん!」
琴璃が静止しようとするが音葉は止まらない。
音葉「ねえ・・・・・私たちには教えてくれないの?」
今度は声が震える。
冬「・・・・・・・今日の晩・・・・」
ゆっくりと口が開く。
琴璃「え・・・・・」
音葉と琴璃の動きが止まる。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
自分の鼓動が分かるくらいに辺りが静かになった。
いや、あたりは友達の声で騒がしい。
しかし、この三人の空間は静かだった。
冬「晩に真実を見せる・・・・・・でも、すぐに忘れる。」
そういってくるりと向きを変える。
冬「Au revoir, les serviteurs fideles de jihad」【さようなら、聖戦士たち。】
そうつぶやいて、人ごみの中に消えていった。
音葉「冬・・・・・・・」
琴璃「・・・・・・・・」
あの人は冬だった。
でも、今までそんな話を聞いたことが無い。
冬が除霊者?
素質が無さ過ぎる。
冬は普通の人間だ。普通の家庭に生まれてきたのだ。
除霊者にはなれない。
無理だ。
無謀だ。
不可能だ。
でも、冬はこういった。
―真実を見せる・・・・・・―
と
明らかに夜の事を知っている。
でも、彼とは全然違う。
こんな複雑な感覚を持ったまま、二人は神社に戻る。
国府宮神社
京子「そうですか・・・・・あの冬さんですか・・・・」
音葉「京子さんは信じれますか?」
琴璃「冬とフユ・・・・・全然違う存在です。」
京子は少し考えて丁寧に語り始める。
京子「私は半分半分ではないか、と考えています。」
音葉「半分?」
京子「そう、冬さんはフユさんですが、別物なのです。」
いっている意味が良く分からない。
京子「冬さんの裏がフユさんなのですよ。たとえて言うなら、紺は私の表の存在、そして私は紺の裏の存在。という事になりますね。」
京子「だから、冬さんの裏がフユさんということです。私と紺は存在が二つになってしまい、二つの存在に二つの固体になっています。」
京子「でも、冬さんは違います。二つの存在に一つの固体。冬さんは朝の姿。フユさんは夜の姿。なのです。」
音葉「ふぅん・・・・・」
なんとなく分かってきた。
冬には二つの意志があり。朝は冬が活動している。
しかし、夜になるとフユが活動している。という事だ。
琴璃「でも、ここにとまったときはそんなフユさんなんて出てきませんでしたよ。」
京子「そう、私もそれで悩んでいるのですよ。二つの存在が変わる場合は2人の意志ではできません。なにか外部的の刺激が無ければ変わる事がありません。」
音葉「悪霊とか・・・・・?」
京子「多分それはありえません。悪霊にとって存在が変わるのならば、昼間でも変わりますし、なにより今まで悪霊退治に出てきていません。」
琴璃「そうですね・・・・・除霊のときに会うはずですよね・・・・」
京子「まあ、今日の晩も会うのですから、そのときにでも確かめましょう。」
音葉「でも・・・・・・でも、すぐに忘れる・・・て言ってた。」
京子(あの人が300年前の人ならば・・・・消すかもしれませんね・・・)
琴璃「・・・京子さん?」
一人考える京子を心配する。
京子「いえ・・・・ちょっと不安を感じまして・・・・」
音葉「不安?」
京子「・・・・・・・・」
音葉「・・・・・」
じっと京子の目を続ける。
京子「・・・・分かりました。話します。」
フウとため息をついていつもより真剣な顔をする。
京子「これから話すことは多分明日の朝までには覚えていませんが、それでもいいですか?」
音葉「それは・・・・」
京子「今の戦いは起きてはいけない戦い。そのために歴史を消す必要があるのです。」
琴璃「・・・・・」
音葉「今は・・・・・・」
真実が知りたい。
そうじゃないとこの気持ちが治まらない。
この事実が消えても、私は聞きたい。
音葉「ききます・・・・覚悟はできています。」
京子「はい・・・・分かりました。」
京子「今の戦いは、完全にフユさんに向けての戦いなのです。」
コチコチと時計の音がする。
それがここの空気を一層重くする。
京子「フユさんは今まである敵を倒すために転生し続けているのです。口調、容姿などは全然違いますが、私は過去に3回「フユ」と呼ばれた存在を見た事があります。」
京子「フユさんは、居てはいけない存在。もう死んでいる存在なのです。一生という輪から外れてしまった・・・・・その歪をなくすために記憶・・・歴史を消すのです。」
音葉「居てはいけない存在・・・・・」
本当は存在しない意志。
体内に毒物が入ると苦しんで死んでしまうように、時間の流れも不純物が入ると悲鳴を上げて崩れてしまう。
だから、無かった事にしなければいけない。
元から無かった事に。
自分の意志とは関係なく。
たとえその場に大切な出来事があっても。
消さないといけない。
残酷だが、
世界を守るため。
過去1000年間もしてきたこと。
抗う事はできない。
許される事はできない。
京子「だから、今言った私の言葉も、昨日フユさんにあった事実も明日の朝になったら消えてしまうのです。」
どんな悲惨な目にあっていても、消えてしまえば。
何も感じない。
分からない。
知らない。
記憶が無くなる・・・・忘れるという事は悲しいことなのだ。
実際にあっていたことでも忘れていれば、それでおしまい。
何もなくなってしまうのだ。
琴璃「・・・・・・・・」
京子「・・・・ちょっと残酷な話でしたね・・・・・・でも、大丈夫。すべて忘れます。」
音葉「・・・・・・・」
京子「ちょっと休んでいてください・・・・・疲れたでしょうから・・・・」
そういって、静かに部屋を出る。
音葉「うん・・・・・・」
琴璃「はい・・・・・・」
疲れた様子で自分の部屋に戻っていく。
京子「・・・・・・・冬さん・・・・出てきてください。」
コチコチコチ・・・・
時計の針を動かす音だけが響く。
スー・・・・
襖が開く。
冬「・・・・バレバレですね・・・・・」
気配を消していたのに京子にばれてしまったのだ。物音一つさえ立てていないつもりだった。
京子「・・・・・いつまで・・・・続けるのですか?」
冬「・・・・・・分かりません・・・・・鬼海をどうにかしないと・・・・」
そこにはロングコートを着た冬が居た。こんどは頭に何もかぶっていない。
京子「・・・・・・・鬼海・・・・・ですか?」
冬「はい・・・・・・」
小さく頷く。
冬「多分、僕がこの力を知ったのは入院中ですね・・・・・」
京子「・・・・・」
冬「あのときに僕は覚醒しました。・・・・・・感じるでしょ・・・・僕には霊力が無いのです。」
霊力が無い。
それは生きている者になれない。
動物だろうが、植物だろうが、生きている「生物」という者はみんな霊力を持っている。
例外は無い。
ただ、その霊力が高いと幽霊を見たり霊能力がついたりするのだ。
京子「・・・・・・時を外れた物・・・・だからですね。」
冬「はい・・・・・そうです。」
冬「入院中に精神のカタが外れて霊力を持たなくなりました。そのころからですね、世界に不信感を持ったのは・・・・・・」
不信感・・・
それは、実際にありえない者が見える事。
それっきり未来が見えるようになった夢。
冬「でも、そのころの僕は何も分かりませんでした。というか、分かろうとしなかった。」
冬「そして、今から4日前に、覚醒しました。すべての記憶が戻り、自分の存在を確認しました。」
京子「じゃあ、フユって・・・・・」
冬「はい・・・・紛れも無く僕です。でも、今までの僕ではない。過去の記憶の僕が「フユ」なんです。」
京子「そうだったのですか・・・・・・」
冬「今日は必ず倒します・・・・・」
京子「・・・・記憶も・・・・ですか?」
冬「はい、記憶を消さないと未来が壊れますから・・・・・」
京子「・・・いつか、貴方だけになれる日が来るといいですね・・・・」
冬「そうですね・・・・・そのためには鬼海をどうにかしないと・・・・」
京子「・・・・そういえば、なんで鬼海なんですか?」
冬「私は「月」そしてあいつは「海」・・・・・・届きそうで届かない二つの存在。そしていつもどこかでにらみ合っている存在。」
京子「・・・・・・そうだったのですか・・・・」
冬「では・・・・・今夜また会いましょう。」
スー・・・・
パタン・・・・
襖がゆっくりと閉まった。