第二話「がんばる!お仕事!」
第二話「がんばる!お仕事!」


真一「ん・・・・朝か・・・・・」
ふと目がさめると、あたりが薄明るくなっていた。
「・・・・んん・・・・」
体全体を触るものがある。暖かくてやわらかい・・・・毛布や蒲団とは違った感触だ。
真一「・・・・・・・!!」
目の前に藍がいる。いや、あと数センチで顔と顔がくっつく位になっている。
一人暮らしのために蒲団の余裕がなくてひとつの蒲団で二人寝ていたのだが、真一は抱きつき癖があり寝ている間に引き寄せてしまったらしい。
藍「・・・・・・・」
そうとは知らず藍はぐっすり寝ているようだ。
真一「・・・・・あれ・・・・離れない・・・・」
藍の体に回った手をどけて距離を置こうとするが体が何かにひっかかているようで離れない。
真一「・・・・抱かれてる・・・・・・・」
確かに腰の辺りに暖かい感触がある。しかもかなりしっかりと抱いているようで、起こさないと解きそうもない。
真一「まいったなぁ・・・・起きそうにもないよなぁ・・・」
真一「・・・・・・いいよな・・・・向こうも抱いているんだから・・・・」
生まれて初めて女の子の抱かれているのだ、まあ、相手は眠って無意識に抱いているのだろうが、結果としては変わらない。こっちも少しだけ・・・・という気持ちがよぎってくる。
・・・・・
やはり女の子なのだなぁと真一は思う。
男と違って柔らかい肌やその白さ、腕の細さ・・・・
今まで意識していなかったが、胸のふくらみなども真一を覚醒させる。
・・・・・
抱くだけだ・・・・なにもやましいことはしないから問題はないはず・・・・
・・・・・
・・・・・
そっと藍の背中に手を回す。
ヘックシ!
真一のそばでくしゃみをする声がする。
真一「え?」
藍「あ、ご主人様・・・・・おはようございます。」
近距離で微笑みかける。
真一「もしかして・・・・・起きてた?」
藍「・・・・・はい・・・・・寒かったので・・・・・その・・・・」
3月といえどまだ朝方は寒い。毛布一枚増やさないと肌寒いのだ。
そしてよく見ると毛布が蒲団の外に出ていて掛け布団だけしか被っていなかった。
真一「あ、ごめん・・・寝相悪いから毛布がずれちゃったね・・・・」
藍「いえ・・・・私も寝相が悪いですから・・・・」
よく考えたら二人の位置が反対になっていた。寝ている間にどうやったかは知らないが位置が反対になってしまったらしい。
真一「ストーブをつけて温まっていればよかったのに・・・・」
藍「いえ・・・・ちょっとだけ、このままがよかったから・・・・・・・」
後の言葉をもごもごさせて喋る。
真一「? まあ、2人とも起きた事だし蒲団から出ようか。」
藍「はい。」
真一は脱衣所に行って服を着替える。藍はまだ服が届いていないので着替えはなかった。
真一「さて・・・ご飯作るか・・・・」
何があるか冷蔵庫の中を開ける。こう見えても料理は得意のほうで一人暮らしになった今でもインスタントよりも手料理を食べるほうが多いくらいだった。
藍「あ、私やりますから。ご主人様は下がってください。」
真一「でも・・・・・人にやらせるのは・・・・・」
身内ならまだしも人に自分のことをやらせるのは真一からして申し訳ない気分になってしまう。
藍「大丈夫ですから。私はこういうのをするのがお仕事ですから。」
そういいながら適当に食材を取り出して流しの上に乗せる。
トントントン・・・・・
手付きは良いようで、早くもキャベツが千切りになっていく。
真一「・・・・・・・・・」
その手付きを真一はしげしげと見つめる。
藍「どうしましたか?」
真一「いや、見ているだけだけど・・・・邪魔かな?」
藍「いえ、そんなことないですよ。でもご主人様は休んでいてください。」
ジュ~・・・・
いい感じにフライパンのものが焼けている。
真一「やっぱり、手伝いたい・・・・・」
見ていると無性にやりたくなってきたのだ。
藍「う~ん・・・今はそれといって手伝ってもらうことないですからね・・・夕ご飯のときにお願いします。」
真一「うん、わかった。」
・・・・・
・・・・・
・・・・・
朝ごはんも食べ終わりのんびりする。
バイトも今日は休みなのでゆっくりできる。
藍「・・・・ほかにやることないですか?」
お皿を洗い終わった藍がこちらにやってきた。
真一「う・・・ん・・・」
ぶちゃっけ一人暮らしで主な仕事といえば食事、洗濯、お買い物ぐらいだろうか?
真一「今のところはないかなぁ・・・・」
藍「そうですか・・・・」
真一「ねえ、ずっと思っていたのだけど。何で藍は落ちこぼれなのかな?料理はちゃんと・・・手際もよくできていたし・・・・」
藍「いえ、私は何をやってもダメなんですよ・・・・・・お料理もお掃除も、何かを壊したり・・・・・間違っちゃうんです・・・・」
真一「でも、さっきは何もおかしいところはなかったよ。」
藍「はい、今はうまくいきましたが・・・・今度は・・・・」
真一「何かを壊したり、悪くなっちゃうから『ルイン』なの?」
藍「はい・・・・・・・」
悲しい顔をする。よほどコンプレックスを持っているように見える。
真一「かわいい名前だと思うけどなぁ・・・・『ルイン』って。活発な女の子って感じもするしね。」
藍「そうですか?」
真一「うん。すごくかわいい。」
藍「そうですか♪なんかうれしいです。」
真一「今度からはいい意味で『ルイン』にしようね。」
藍「いい意味・・ですか?」
真一「そう、介護される側が「だめになるくらい」に嬉しくなる様なことができるようにって・・・そういう意味の「ルイン」にしよう。」
藍「・・・・・」
藍「できるのでしょうか・・・・」
真一「できるよ!先生も努力家って君を言っていたからね。」
藍「・・・・・はい、がんばってみます。」
・・・・・
・・・・・
・・・・・
真一「・・・・・・・・」
藍「・・・・・・・・・・」
することがない。まあ、学校もないし趣味が仕事のようなものなのでバイトの日はすることがなくのんびりとすごす日が多いのだ。
真一「ごめん・・・・その・・・・暇で・・・・・・」
これほど暇が苦痛に思った日はないだろう。洗濯物を取り込むのもさっき終わってしまったので今日一日の仕事の80%は終わってしまった。
藍「いえ~でも、暇ですね・・・・・」
愛想良く答える。しかしその反応が真一をいっそうもう分けない気分にさせる。
真一「・・・・・・・・・・・・」
藍「・・・・・・・・・・・・」
気まずい空気が流れる。真一は女の子を相手に話したことは数えるほどしかない。だから何を話していいのか分からないのだ。それに対して藍のほうはこちらが視線を送ると愛想良く笑ってこっちを見てくれるのだ。
真一「ねえ、ルイン。学校では何を勉強していたの?」
藍「え、学校ですか?」
真一「そう、家政婦養成学校なんてあまり聞かない学校だから・・・・」
藍「まず、ご主人様に無礼のないように礼儀作法を徹底的に教え込まれます。これが出来ないと1年生から2年生になることすら出来ません。」
藍「その次にお料理、お洗濯、お掃除などの家事全般のことを教えてもらいます。また、ご主人様の要望をかなえるための知識も教わりました。」
真一「知識?」
藍「はい、ご主人様の健康管理をするために栄養学、医学、精神学や、欲求不満をかなえるための仕方などを・・・・・」
真一「欲求不満の・・・仕方?」
藍「残念な話なのですが、我々を雇ってくれるご主人様にもさまざまの人がいます。その中でも私たちを女性としか見ていないご主人様も少なからずいるのです。」
真一「それって・・・・・その、男と女が合わさる事・・・?」
うまい言葉が出てこなくてストレートに聞いてしまった自分が恥ずかしかった。
藍「そうです。どうやれば妊娠しないでその行為をできるかとか・・・早く出させる事とかを・・・・・」
明らかに恥ずかしがりながら喋っている。真一も聞いてはいけないことだと思いながらも聞いてしまった。
真一「結構大変なんだね・・・・・」
藍「はい・・・・実習も受けましたから・・・・・初めてはもうとられちゃいましたけどね。」
笑って答えるが真一には笑えなかった。漫画やアニメでは見たことのあるその行為だけのためにこういう子達を雇う人がいるなんて・・・・・
真一「そういったことは分かりながら勉強していてたんだよね?」
藍「はい、先輩や先生からそのことは聞きました。」
真一「じゃあなんで、ルインはこの仕事に就こうと思ったの?」
藍「・・・・私は子供のころはベッドから出れないほどの病弱な体をしていたのです。
死にかけた日も何回かありました。そのころ私たちの両親は私の治療費を払うために共働きで朝早くから夜遅くまでお仕事の行っていたので私の世話として一人の家政婦さんがやってきたのです。」
真一「・・・・・・」
藍「孤独だった私の心を一番最初に覗き込んでくださったのがその家政婦さんでした。私が苦しいときには一生懸命励ましてくれましたし、気分が悪くてその家政婦さんに八つ当たりしてしまった時も、怒ることなく看病してくれたのです。私はこれからこの仕事に尽きたい。そして、私みたいな人を助けてあげたい。そういう風になってきたのです。」
真一「ふ~ん・・・・・よほどいい思い出なんだね。今ではこうやって立派な家政婦・・・メイドさんとして仕事をしている。」
藍「いえ・・・・あのひとに比べて私は・・・・・」
首を振って否定するが、真一にとっては十分すぎるほどの働きぶりなのだ。
藍「ご主人様の夢とかはあるのですか?」
真一「夢か・・・・・・・これかな?」
本棚の中から自分の描いた同人漫画を取り出す。
藍「漫画家・・・・・ですか?」
真一「うん、正確にはポスターやゲームなどの絵を描くイラストレーターになりたかったんだけどね・・・・・みごと就職に失敗して・・・フリーターになっていることろだよ・・・」
藍「そうだったのですか・・・・・・」
真一「でも、あきらめてないよ。ルインが教えてくれたもん。」
藍「え?」
真一「ルインだって子供からの夢をかなえようとこうやって必死になって頑張っているんだから・・・・・僕だっていままで何もしていなかったわけではないんだから・・・・こうやって絵を描き続けていればきっと叶う日がくるんじゃないかな。って思いはじめたんだよ。」
藍「そうですか・・・・・」
真一「お互い夢をかなえるために頑張ろうね!」
そういって真一は手を差し出す。
藍「はい!」
その手にあわせるように藍も握手をする。