第一話「出会ってお仕事!」



お前がそんなに管理の悪い人間だったとは思わなかった。
何のために専門学校へ行って何のために勉強してきたんだ。そのお金を払ってるのも私なんだぞ。これからお前はうちの子供でもなんでもない。もう二度とその顔を私の前に出すな!


真一は今日の朝に届いた手紙をぽいっと捨てる。
親に就職先が決まっていないことがばれて縁を切られたのだ。
真一「ふう・・・・どうするかなぁ・・・・・」
別になりたくてなったフリーターではない。むしろ何処でも就職したかったのだが、どこもいっぱいで入れなかったのだ。
真一「たれか助けてくれないかなぁ・・・・・・・」
電気のついていない蛍光灯を眺める。電気、水道、ガスは止められていないが節約の為にあまり使わない事にしているのだ。
真一だって夢が無いわけではない。夢があるからこそCG関係の専門学校に行ったのだ。自分でも人並みには上手だと思っているし、同人即売会などではそこそこの売り上げを見せたりするのだ。しかし、それだけでは社会的にも貧しいものは拭えない。
真一「・・・・・・新作・・・・・どうしようかなぁ・・・・・」
ごろっとねっころがって手付かずの漫画の内容を考える。連載物ほど難しい物は無い。初めて買った人にもわかりやすく、また前に買った人にも面白い物を作らないといけないのだ、そして売る物なので中途半端なものは作れない。
だからまだ、原稿用紙は真っ白なのだ。
ビンポーン!
滅多に鳴らないインターホンが鳴った。
真一「・・・・・新聞の料金かな・・・・・」
この家の来客といえば同人友だちか、こういった集金業者である。
しかし同人友だちが来る様な時期でもないのでおのずと集金業者になってしまう。
ピンポーン~
丁寧に2回も鳴らす。友達が押すような激しい音はでていない。
真一「はいはい、今あけますよ~・・・」
のそのそっと歩いて戸をあけようをする。
ガチャ・・・
???「きゃっ!」
ドン!ゴン!ドスッ!
何かが転げ落ちる音がする。
バターン!
最後に一回重いものが倒れる音がして静かになる。
真一「え?」
ドアを開けるとそこには誰もいなかった。いや、居た形跡はあった。くつが玄関の前に落ちていた。そしてなんかドアが思うように開かない。
真一「ん?あれ?・・・・・」
???「すみませ~ん・・・・こっちですよ~」
自分の下の方から声が聞こえる。真一が見下ろすとそこにはパンツ丸出しの女の子が知りもちをついていた。
???「いたぁ~い・・・・」
真一「あの・・・・・・見えてますよ・・・・・白いパンツ・・・・・」
???「えっ!あっ・・・・・ごめんなさい!」
謝る必要が無いのに謝り、そそくさと立ち上がりスカートの太もも辺りを押さえる。
真一「大丈夫ですか?」
???「はい、新聞に足をとられただけですから。」
改めてみるとその子の周りには新聞が散乱していた。そういえば、今日の新聞を取っていないなと真一は思った。
真一「あ・・・血が出てる・・・・手当てするからとりあえず中に入る?なんか用事もあったんだよね?」
???「あ、はい、でもこのくらい平気ですよ。打った時切っただけですから~」
真一「でも消毒だけはやっておこうよ。女の子は指も大切なんだろ?」
???「ん~ご主人様がそういうならいいですよ~」
そういってすんなり入ってしまった。この女の子には警戒心は無いのだろうか?
真一「え?あ・・・どうぞ・・・・・」
あんまり聞き分けが良かったので誘ったほうの真一のほうが戸惑ってしまった。
真一「とりあえず、消毒と包帯巻いておくね。ばんそうこうだと後ついちゃうから。」
???「はい、よろしくお願いします。」
今の若い子にしてはえらく丁寧な言葉使いだった。しかも、真一とはまったくの他人、初めて会う人なのだ。ここまで人当たりがいいとこちらも緊張しなくてすんですしまうような気がする。
真一「手を出して。」
細く長い手を真一に出す。そのては人形みたいに真っ白で綺麗だった。
真一「あ・・・・・・・・」
急に真一は黙ってしまう。
???「どうしましたか?」
真一「いや・・・・・女の子の手をこうやって長い間触るのは初めてだから・・・」
???「あ・・・・・・・」
両方とも意識し始めてしまう。仲の良い関係ならまだ余裕があるのだが、お互い全然知らない人なのだ。なんだかむずかゆいものを感じる。
真一「よし・・・・これでいいよ・・・・・」
???「ありがとうございます。ご主人様。」
丁寧に頭を下げてお礼を言う。そのときにシャンプーの匂いが優しく香る。
真一「うん・・・・・・・・・・・て、ご、ご主人様ぁ!!」
ようやく自分がどういわれているか気づいたようだ。まあ、だれでも知らない人からご主人様といわれてびっくりしない方が珍しいことだろう。
???「はい、今日からご主人様の家政婦・・・・メイドになりました天野 藍です。よろしくお願いします。」
真一「め、め、め・・・・メイドぉ!」
そういえば、服がよくイベント会場でみるコスプレや秋葉原にあるメイド喫茶の服に良く似ている物を着ている。青い服のうえにひらひらのレースがついた大きめのエプロンを着ている。
真一「え~と・・・ここは寮なんだよ?ワインを持っているようなリッチな人は居ないんだよ?別の家じゃないの・・・・・・」
ここはごく普通の寮で1DKの小さな寮だ。家賃は毎月5万でバイトの6分の1は消えてしまう事になる。そんな人がメイドを雇えるわけが無い。
???「いえ、いくら私がドジでもご主人様の顔は覚えてますよ。」
真一「覚えてるって・・・・・・・・・あ、まさか・・・・・・・」
何かを思い出したように部屋の隅にたまっている新聞をあさりはじめる。
ガサゴソ・・・・・・・
ガサゴソ・・・・・・・
ガサゴソ・・・・・・・
真一「たしか・・・・この新聞と一緒に・・・・・・・」
???「何を探しているのですか?」
真一「あった!これだ・・・・」
一通の手紙を取り出す。5日前に届いた手紙で今まで見た事の無いものだったのでよく覚えていたのだ。
真一「え~と・・・・家政婦養成学校 校長・・・・・・・・」
その中から一枚の封筒を取り出して読み始める。
真一「このたび、厳選な抽選の結果、貴方様に実践実習ということで天野 藍(三年、家政婦見習い)を預ける事になりました・・・・・・・」
真一「まさか・・・・君が・・・・・・」
藍「はい、私が天野 藍です。中に写真も入っていると思いますよ。」
真一「・・・・・・この手紙・・・・本当だったのか・・・・・・・」
いままで家政婦養成学校なんて学校を聞いたことがない。また、悪戯メールか何かと思って信じていなかったのだ。
真一「ごめん・・・・・帰ってくれないか・・・・・・」
藍「え・・・・」
真一「だって、見知らぬ2人が一緒の部屋で生活するんだよ・・・・・あと、僕にお世話してもらう義理もないし・・・・・・・」
藍「でも・・・・実習で・・・・・」
真一「それはわかる、大事な学校の授業の一つだと思うけど・・・・僕には必要ない。」
藍「・・・・・・・・・・・・・」
藍は少し黙ってそれから声を震わせながら喋る。
藍「分かりました・・・・・私はここから居なくなります・・・・・・」
タッタッタッ・・・・
ガチャ・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
バタン!
藍が出て行ってしまった。これでよかったんだ。あの子もこんな恵まれないところよりもっと裕福な家で自習をしたほうがいいのだ。真一にとって彼女は立派過ぎるのだ・・・・
真一「藍・・・・・・・泣いていたな・・・・・・」
悪いことをしたが、これでよかったのだ。と自分を説得する。
真一「さて、漫画早く仕上げないと・・・・・・・」
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
カチ・・・・カチ・・・・・・・・カチ・・・・・・
ペンが進まない。
イメージがわいてこない。
頭に思い浮かぶのは藍の事だけだった。
最近の子にしては律儀で礼儀正しい子だった。顔立ちも良くて恋人も多いのだろう。
・・・・・・・・・・・
いかんいかん。そう思って頭を軽く叩く。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
気になって仕方がない。
なぜ?
彼女が家政婦、メイドだから?
いや・・・・なんかもっと深いものがあるのかもしれない。
ここから出るときに彼女は泣いていたように見えた。
いや、彼女は絶対に泣いている。
僕は泣かせてしまった。でも、泣くようなものなのか?
追い出されたのは彼女のせいではなくて僕のせいだから気にしなくていいはずだ。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
だめだ、ペンがすすまない。
真一は電話を取り出して封筒の電話番号に電話をかける。
ツゥルルル・・・
ツゥルルル・・・
ツゥルルル・・・
ガチャ!
「はい、家政婦養成学校です。」
真一「あの・・・今日、天野 藍という実習生が来た家の者の新垣 真一ですが・・・・・」
「あ、実習生の家の人ですね?今担任につなげます。お待ちください。」
・・・・・・・・
・・・・・・・・
早く!
・・・・・・・・
なぜか真一の気持ちはあせっていた。
「はい、担任の志保に代わりました・・・・・・どうされましたか?」
真一「あの・・・・藍さんについて色々聞こうと思いまして・・・・これから一緒にすごすのに何にも知らないのは心苦しいですから・・・・・」
志保「また藍が何かしてのでしょうか・・・・もしわけありません・・・」
問題行動をして呼び出されてしまったと勘違いしたようだ。
真一「いえ、彼女は何もしていませんよ。今、買い物に行かせていてその間にきこうかな・・・と思いまして・・・」
志保「そうですか・・・・何を話しましょうか?」
真一「彼女が実習をしている理由です。」
志保「・・・・・・・・・・」
少しの間が開く。どうやら、あまり良い話ではないようだ。
志保「藍は意欲、態度ともに優れているのですが・・・・・どうしてもそれが成績に結びつかない子で・・・・・1,2年生ともにぎりぎりで進級できたんです」
意外な言葉が出てきた。あんなにしっかりしているのに落ちこぼれだったとは。
志保「それで、名誉を挽回するために特例で実習をやらせることにしたんです。」
真一「そうだったのですか・・・・・・それで、実習に失敗するとどうなるのですか?」
志保「・・・・・・卒業できずに退学になります。私たちの学校は留年制度を採っていません。だから単位のない人は全員退学になるのです。」
・・・・・・・
そうだったのか、真一の一言は彼女・・・・藍の人生を変える一言だったのか。
彼女も必死で3年生まで来たのだろう。
なのに、なのに、心無い自分の言葉のせいで彼女は学校を辞めさせられる。
意欲や態度があっても形にのこらなければ意味のないものなのだ。
志保「でも、同情なんかで合格をあげないでください。そんなことをしたら一番苦しむのは彼女なんですよ。だから、あくまでも公平な成績をつけてあげてください。」
まえで自分を見ているようだ。
学校は卒業した。
でも夢をかなえる事は出来なかった。
それが彼女の身にもおきようとしているのだ。
夢があってあの学校に行き、夢に向かって走っているのだ。
そんな藍を応援してあげたい。
いても立ってもいられなくなった。
ダン!
真一は部屋を飛び出して玄関を蹴り上げて開けた。
志保「・・・・新垣さん?・・・・新垣さん?」
電話を切らずに飛び出していった。
・・・・・・・・
・・・・・・・・
はあ・・・・はあ・・・・・・・はあ・・・・・・
何処にも居ない。
・・・・・・・・
・・・・・・・・
太陽が地平線に沈みかけている。でも探すのをやめない。
腕にはコートを抱えて真一は町中をさまよう。
どこだ?
・・・・・・・どこにいるの?
・・・・・・・おねがい・・・・・でてきてくれ・・・
そして、謝りたい。身勝手な事を行って「ごめん」と―
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
太陽が沈んだ。
結局彼女を見つける事は出来なかった。
いまごろ寒さに震えているのかもしれない。
いまは3月だがまだ肌寒い日が続いている。あの格好では寒いだろう。
真一は近くの公園にやってきた。
公園といってもそう広くないし、壊れかけの滑り台とうんてい、ベンチがあるだけだ。
真一「・・・・・・・藍・・・・・ごめんな・・・・僕って何も考えていないんだな・・・」
夜空になった星空を眺めてふうとため息をつく。
キィ・・・・キィ・・・・・・
横のブランコが静かにゆれている。
真一「あ・・・・・・・・・」
誰かいる。服装は黒くて分からないが、誰かが静かにブランコに乗っている。
ギィ・・・・・キィ・・・・・・
真一にはそれが誰なのか分かった。あの特徴のある服を着ている人は滅多に居ない。
真一「・・・・・・寒いだろ・・・・これきなよ・・・・」
その人に持ってきたコートを優しくかける。
藍「ご主人様・・・・・・・」
今まで泣いていたのだろうか、顔がぬれていた。
真一「ルイン。そう呼ばれていたんだね?」
藍「なんでそれを・・・・・・・・」
真一「君の先生から聞いたよ何もかも・・・・・・」
藍「そうですか・・・・・・私は何をやっても上手でないし、何をしてもドジばっかりで・・・・」
真一「ごめん。僕・・・・君の事を誤解していたよ・・・・・」
真一「てっきり、優秀な人だから実習を受けていたと思って・・・・・僕と同じで落ちこぼれだったんだね・・・・・」
こくっとうなずくだけだった。
真一「ごめんなさい。人の気持ちも知らないで勝手に追い出したりして・・・・・」
藍の前で土下座をする。これがいまの真一に出来る最大の謝罪だった。
藍「いいんですよ。私には・・・・この仕事は向いていなかったのですから・・・・」
無理に笑顔をつくるがぎこちない。
真一「なあ、その夢をもう一度かけてみないか?僕は・・・・夢を断たれちゃったけど黄身はまだやり直しが効くんだから・・・・・」
そう、同情ではない。チャンスをあたえるのだ。
真一「君を僕の二の舞にしたくない。だから、僕の家に来てくれ。」
なんか別に意味にとらわれそうだが、こういう台詞しか出てこなかった。
藍「いいのですか・・・・・?」
真一「僕にも君の夢の応援ぐらいさせてよ。」
藍「・・・・・・ありがとうございます!」
深々と頭を下げる。そして真一はそっと藍を抱きしめる。
真一「うわ!冷たい・・・・・・早く家に戻ろう・・・・・・」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
そうして、フリーターとメイドという異色の生活が始まったのだった。