第二話:『その後の暮らし』


第二話:『その後の暮らし』


音葉「最近はだいぶ暖かくなってきたねぇ~」
琴璃「ですねぇ~でも例年に比べるとちょっとまだ寒いですよ。」
季節は4月、春・・・なのだが、今年は去年に比べて本当に寒い。
国府宮の前の参道の桜の木もいつもなら咲いているのだが、所々咲いているだけでとてもお花見が出来るような感じではなかった。
音葉「3月の終わりに雪が降ったのにはビックリしたね~」
琴璃「私初めてですよ、3月の終わりに雪を見たのは~。」
そう、異常気象なのかただ寒気が残っているのかは知らないが、尾張地方で3月に雪が降ったのだ。雪国ならまだしも、どちらかと言うと温暖な気候の地方なので雪が振ることは珍しい。
冬「今年は変だよね~」
悠「今でも俺の部屋は冷蔵庫だぞ!」
音葉「だよねぇ~・・・・・・・ってわぁ!」
琴璃「いつのまに・・・・・」
いつの間にか冬たちが本堂の縁側でくつろいでいた。
音葉たちは庭の掃除をしていたので気づかないはずがないはずだが・・・・
冬「こんにちは~」
悠「ういっす。」
琴璃「お二人は何しに来たのですか?」
冬「2人の巫女を肴にお花見でもs・・・・・・」
ドカッ
悠「お前はオヤジか!」
悠の容赦ないツッコミが冬の頭に直撃する。
冬「うう・・・いいじゃんよ・・・巫女さんでも・・・」
悠「そこが違う。」
音葉「・・・・それで、何でここに?」
呆れた音葉が聞きなおした。
悠「いやね、ここでお花見とか出来るのかな~とおもって来たんだけど・・・・」
冬「全然咲いてないんからお参りしていこうってことになったんだ。」
もっとも、お参りせずに縁側に座っていたのだが。
琴璃「男ふたり・・・ですか?」
悠「ちゃうちゃう、今日は下見だよ。今度改めて来る予定だったんだ。」
冬「で、その付き添いが私。でも、誰と行くか教えてくれないんだよねぇ~」
スタッと縁側から立つ。
音葉「誰なんですかぁ~?」
琴璃「ねえ、誰なんですか?」
さすが女の子、こういうことには突っ込んでくるようだ。
悠「・・・誰でも良いじゃんか~」
冬「私は言ったんだよ、クリスや音葉とお花見に行くって・・・・こっちもいったんだからそっちも言って欲しいよねぇ~」
女口調で音葉と琴璃の間に入る。
音葉「ですねぇ~」
琴璃「ですねぇ~」
彼女達の目はおもちゃを買ってもらった幼い子供のような輝きを持っていた。
冬「家族?」
悠「ちがう。」
音葉「親戚」
悠「ちがう。」
琴璃「友だちさん?」
悠「はすれ~」
冬「ペット」
悠「はずれ~」
音葉「バイト仲間。」
悠「ぜんぜん~」
琴璃「大学のサークルメンバーですか?」
悠「はずれ~」
冬「もしかして・・・一人。」
悠「違う~・・・・・・・・・って、冬お前何気にひどいこと言うな!」
冬「あ、ばれてた・・・・・」
悠「ていうかさ、お前達ある言葉をわざと言わない様にしているだろ。」
冬「でも・・・本当にできたの?」
悠「先に作られたお前に言われたくない。」
冬「そうか~悠にも春が来たのか・・・・・」
音葉「おめでとうございます~」
琴璃「おめでとうございます~」
悠「いやぁ~」
完全に照れている。
悠「っと。今日バイトはいっていたんだった。じゃ、これで失礼するよ。」
冬「うい~」
音葉「また~」
琴璃「さようなら~」
タタタタタタ・・・・・
門の前に止めてあった自転車に飛び乗り急いでいってしまった。
音葉「彼女か・・・・・・」
冬「こっちをみて言うなぁ~」
琴璃「・・・・・・・・私も・・・恋人さん・・・・・ほしいな・・・」
冬「だから。こっちを見ても男は現れんよ~」
音葉「・・・・・はぁ~」
冬を見てため息をつく音葉。でもまんざらではないようだ。
冬「あっ、失礼な!私を見てため息ついたな!!」
音葉「いや・・・・なんでこんな奴のこととあんな事したんだろうって・・・・・・」
冬「自分からしてきたくせに・・・贅沢な・・・・・」
あんなこととは冬と再会したときにしたキスのことだ。
音葉「・・・・・ねえ・・・・・」
元気だった音葉が急にしおらしくなる。あのときのことを思い出したようだ。
冬「ん?」
音葉「・・・・・・いい。」
冬「・・・・そうか・・・・」


京子「ふふふ・・・・・若いですねぇ・・・・」
紺「・・・・・・巫女が盗み聞きですか・・・・」
京子「あら、紺は気にならないのですか?」
グフフという笑い声が似合いそうな笑顔で音葉たちを見ている。
紺「・・・・・・そりゃ・・・気になりますが・・・・・」
素直に反論できない紺は困惑している。
京子「ああ、一人の男を美女2人が奪い合う・・・・なんておいし・・・・もとい、可哀想なシチュエーションなんでしょう!!」
京子の耳は最高潮に動いている。まるで風を送る機械のようだ。
紺「・・・・・・・・・」
紺は呆れて物も言えなくなっていた。


音葉「もう・・・行くの?」
冬「ん~・・・暇だからなぁ・・・・どうしよう。」
専門学校行っているとはいえ、土日や祝日はきっちり休みのために暇なのだ。
しかも、平日の授業もあんまり大学と変わらないので以外にも空いている時間は多いのだ。
音葉「じゃあ・・・・・お茶・・・していかない?」
音葉は何で自分がこんなに緊張しているのか分からなかった。というか、何でこんなに緊張しないといけないのだろうと考えてしまうほどだった。
冬「まあ、お茶しようかな?」
曖昧な感じの返事が返ってくる。
こういうときは絶対に乗るのが冬だった。
音葉「どうぞ~」
テレながらも部屋に誘導する。
カチカチカチ・・・・・・
時計の音が一定間隔に聞こえる。
カチ・・・・カチ・・・・・カチ・・・・・・
やはりお互いに意識してしまうと、慣れている空間でもそわそわしたり、普段気づかないものに神経が行ってしまうものだ。
当然音葉も落ち着かない。
冬「・・・・・大丈夫?」
音葉「うん・・・・・大丈夫・・・」
の様には見えない。
音葉「ねえ、クリス・・・・クリスとはあのあと上手くいってるの?」
冬「・・・・しりたい?」
悪戯っぽく言う冬。どうやら言いたいことは理解しているようだ。
普段天然の冬も、恋愛や恋バナになると鋭くなるのだ。
どういう頭の構造をしているのだろうか・・・・
冬「・・・・・それなりの付き合いはしているよ。一緒に出かけたりするし・・・」
音葉「そっか・・・・・」
ほっとしたような、がっかりしたような不思議な気持ちだ。でも、寂しい気もする。
冬「でも、君のことも好きだよ。」
音葉「え・・・・・」
冬「うん、クリスも分かっていると思うけど・・・いや、クリスの方が数倍詳しいのかもしれない。」
音葉「・・・・でも・・・・」
冬「自分でもいけないと思ってる。恋人がいるのにそれに好きな人が出来るのは人間として恥ずかしいことなんだと思う・・・・でも、けじめが付かなくて・・・・・」
音葉「・・・・私が、離れれば良いんだよね。」
離れるとは、友達以上の関係を普通の友だち・・・・いや、たまに会う程度の友だちにするということだ。
音葉も好いている身として嬉しいはずがない。
冬「いや、それは僕の口から言わせてもらって良いかな?・・・・・もしかしたらクリスを切るかも知れない・・・・・クリスもそれを承知で音葉との関係を認めているんだ・・・・」
クリスは、冬、音葉が思っている以上に大人だった。まあ、クリスチャンと言う事もあるが一概にそれだけとは言えない。
自分の恋人が他の人が好きだった場合はまず、その好きになった人を嫌うはずだが、クリスはそんなことはなかった。
音葉が友だち・・・いや親友以上の物があったからかもしれないがそれだけではないはずだ。
音葉「・・・・私もけじめをつけないと行かないんだよね。」
冬「・・・・・・困ったなぁ・・・・」
音葉「ほんと・・・困ったな・・・・」
鬼海「・・・・こまったのか?」
冬「うん・・・・まあね~」
!!
いや、一人おかしいのが混ざっていただろう・・・・
音葉「・・・・・・・・・ん」
鬼海「冬がはっきりすれば済むことではないのか?」
冬「まあね・・・・・でも・・・・・」
音葉「えぇぇぇええぇぇぇぇええ!!!おお、おおおお鬼海!!!」
かなり動揺している。
まず、鬼海がこの世界にいることがおかしいし、しかも冬と話をしている点もおかしい。
鬼海「おちつけ、お前達を襲う気は無い。」
冬「あれ?知らなかった?鬼海がこの世界にいること・・・・」
音葉「何が目的!また悪さをしようとしているのっ!!」
ガタッと立ち上がり闘志むき出しにして怒鳴りつける。
鬼海「我は無駄な殺生はせん。お前達に一度私は負けているのだ。今更抗うつもりはない。」
音葉「でもっ!!!」
あの時の圧倒的な強さは今でも鮮明に覚えている。
むしろ、忘れるほうが無理な話だ。
冬「おちついて・・・・・な?」
両肩をトンと叩いてゆっくりと座らせる。
音葉「・・・・・・・・・」
冬「鬼海・・・・・今は鬼神だったっけ?急に出ると誰もがそうなるよ。」
鬼海「しかたないだろう、冬が紹介する気がまったく無かったのだ・・・」
音葉「ねえ、冬・・・・なんで鬼海がここにいるの?」
ようやく落ち着きを取り戻した音葉が聞いてきた。
しかし、まだ怖いのか、冬の手をギュっと握り締めている。
冬「確かに鬼海は私達の手で倒したけど、鬼海の霊力は神・・・いや神以上の霊力を持っていたんだよ。」
鬼海「いまは鬼神だ!」
冬「ああ、その多すぎる霊力をすべて浄化させるのは無理だったんだ。その結果残った霊力はまた鬼海・・・・鬼神をまた作ったと言うわけだ。」
鬼神「そういうことだ、お前達の倒した鬼海の容姿、記憶は持っているがまったくの別物だ。私は鬼海の様に力を求めてはいないし、世界を滅ぼそうとは思っていない。」
冬「しかも、私の分身と言うこともあってか性格的にかなり私に近いんだ・・・・」
鬼神「・・・・もともと、同じ存在だったからな。私になるにあたってそこが顕著に出てしまったようだ・・・・」
音葉「・・・・・本当?」
鬼神「ああ、そうでなければここに入る前に京子か紺、もしくは夏樹に消されていただろう・・・・まあ、夏樹からは今も警戒されているがな・・・・・」
冬「・・・・・・おまえ、嫌われてるなぁ・・・・」
鬼神「うるさい!私だってなりたくて嫌われていないわ!!」
冬「怒ると余計嫌われるよ。」
鬼神「ぐ・・・・・・お前・・・・」
冬「あのときの鬼海はどこいったんだろうなぁ~」
は~。と冗談交じりにため息を吐く。
たしいして、鬼神は冬の頭をポカポカ叩きながら反論する。
鬼神「私をからかって遊んでいないか?」
冬「いえいえ、そんな、神様に向かってからかうなど・・・・・」
鬼神「・・・・・・・・」
音葉「・・・・・・・これ本当に、鬼海だったの?」
あまりの違いに音葉も言葉をなくす。
冬の言うとおりどう考えても冬が2人いる。言い方は違うが反応はまったく一緒だ。
鬼神「失礼な!私だって・・・・・・・」
冬「お~よしよし・・・大丈夫、私は信じているから・・・」
鬼神「うう・・・・・お前に慰められるとは・・・・・」
音葉「・・・・・・・・・・・って、鬼神って男なの?」
今気づいたのだが鬼海って性別どちらなのだろう。
男!といえば男だろうし、女!と言えば女に見える。
鬼神「私は性別ないが・・・・・みるか?」
見るって・・・・・
音葉「え・・・・・あ、その・・・・・・」
気になる気もするが、そこは理性が働いて止めている。
冬「・・・・・両方あるんだよね・・・・・」
鬼神「だな。冬も見てみるか?」
冬「いや・・・いい・・・・・」
自分と同じものの下に女の子の物もついているのだ、考えただけで気持ち悪い。
音葉「それはそうと、鬼神はどこで生活してたの?」
冬「いちおう、私の部屋にいるよ。」
鬼神「ああ、主に冬の家にいることが多いが、浮遊霊とあまり変わらんな。」
浮遊霊とは、あても無くさまよう霊のことで、一般的なイメージの霊はこっちなのだろう。
音葉「ふう~ん・・・・・」
鬼神「まあ、私はちょっと戻るな。・・・・・・何か不吉な感じがする・・・・」
冬「・・・・・・厄介ごと?」
鬼神「ああ、急に大気の霊圧が高くなってきている。ちょっと調べに行ってくる。」
音葉「そうなの?」
冬「ああ、鬼神は普通の霊に比べて10000倍の霊感があるんだ。ちょくちょく感じては私に知らせてくれるから助かってるよ。」
鬼神「・・・・今回だけは危険かもな・・・・霊圧が尋常じゃない。」
冬「・・・・・・すまないけど、頼んだ。」
鬼神「ああ、承知。」
ヒュッ・・・・・・
鬼神は壁をすり抜けて風の様に外に出てしまった。
音葉「冬・・・・・・」
冬「心配ないよ。かつて鬼海だった鬼神だってあんなに変わったんだ。何とかなるよ。」
音葉「・・・・・本当?」
冬「・・・・ああ。」
音葉「・・・・・・・・・・・」
音葉の心はいろんな思いが重なって冷たくなっていた。
好きな人の行方。
新しい霊の出現。
巫女としての仕事の責務。
どれもが18の少女には重くのしかかる。
投げ出すのは簡単だ。しかし、これを代わりにしてくれる人は誰もいない。
というか、誰も出来ないのだ。
そのため、完璧にこなさなくてはいけない。その重圧にだんだん耐えれなくなってきているのだ。
本当なら親にすがりたかった。
しかし、その親もいない。
親代わりの京子、紺はいるが、本当の家族でないために迷惑はかけたくないのだ。
冬・・・・・・・・
確かに冬のことは気になるのだが、「好き」とはっきりした感情はもてない。
このまま、冬のことを好きになればこの重圧を和らげることが出来るかもしれない。
しかし、これ以上進むと、後に引き下がれなくなるような気がするのだ。

それも怖かった

一体なにがしたいんだろう。
冬「・・・・・音葉?大丈夫か?」
いつの間にか冬が近づいてきておでことおでこをあわせてきた。
音葉「え?・・・・なにが?」
冬「いや・・・・なんかつらそうな顔していたから・・・・・・」
冬の顔がまともに見れない。
音葉の目に映るのは、冬の目だけ。
おでこには冬の体温を感じる。
・・・・・
ちょっと冷たかった。
でも、暖かかった。
・・・・・
冬「・・・・・音葉、本当に大丈夫か?ぼーとしてるぞ?」
音葉「・・・・・ねえ、私がここで泣いたら冬はどうする?」
冬「え・・・・・とりあえず、慰める。そして、話を聞く・・・・かな?」
・・・・・
やっぱり。
冬は優しすぎる。
私にとって冬は暖かすぎる。
だから、冬をあきらめられないのだろうし、好きになれないんだと思う。
この位置が一番好きなんだと思う。私は。

そう思った瞬間。
音葉の目から涙がこぼれた。
冬「え?本当に泣くの??」
まさかと思っていた冬は、この場をどうすれば良いか分からない。
音葉「ううっ・・・・・ぐすっ・・・・・・」
大声で泣くというよりかは、声を殺すような感じのすすり泣きだ。

親の代わりに・・・・自分の重圧を取り除いてくれる人・・・・
それが冬だった。
だから、冬の前では涙が出せる。
ただそれだけだった。

冬「・・・・・・・・・・」
冬「わかった・・・・・ほら、いっぱい泣いて・・・・」
わけは分からないままだが、とりあえず泣かせてみた。
我慢するより泣いてすっきりしたほうが精神的にも身体的にも良いのだろう。

京子「・・・・・・・」
紺「・・・・いろんなものを背負ってきているのですからね・・・・18に世界を背負うのはつらいことです・・・・・」
京子「・・・ご飯・・・どうしましょうか・・・・」
京子はお膳を持って待っていた。
紺「とりあえず、持ちかえりましょう。お腹がすいたらこっちにやってくるでしょう。」
京子「・・・ですね。・・・・音葉さん・・・頑張って。」
このとき、京子と紺は幽霊ではなく、家族の一人として音葉を見守った。