第1話: 『黒いマント』


第1話: 『黒いマント』


翠紅「はぁ・・・・はぁ・・・・何でこんなところにこんなのが居るのよっ!」
翠紅はその言葉を噛み締めた。今まで比較にならないほどの敵がここにいる。
いまは深夜。どんなに叫んでも助けが来るはずも無く、その言葉は空を切るだけだった。
翠紅「・・・・・・・くっ・・・」
もう、魔法で使う材料も少ない。
さっきの攻撃でしとめるはずだったので、後のことは考えていなかったのだ。
せめて、仲間が居てくれれば・・・・・
そう考えてしまうが、翠紅以外に霊能力者が居るはずも無く、今までこの名古屋地区を一人で担当してきたのだ。
翠紅「こんなことになるのだったら、国府宮に行っておけばよかったな・・・・・」
国府宮と言うのは、前・・・・・5ヶ月前ほどに起きた鬼海騒ぎを解決したあの神社である。そっち業界では瞬く間に知れ渡って知らないものは居ない。
しかし、後悔してももう遅い。
翠紅「・・・・・ふう・・・・・こんなところで・・・・」
翠紅はため息をついて落ち着きを取り戻した。そして、残り少ない魔法の材料を握りしめて悪霊に突進していった。
悪霊「ははは・・・・・まだ攻撃してくるのか・・・・・いいだろう、これが最後だ!!」
悪霊のほうは余裕な構えを見せて、翠紅の行方を見ているだけだった。
翠紅「呪文式言うの面倒だからそのままいけぇ!!!」
魔法の材料である粉上の物質を前にばら撒き、手から気功でも放つような構えをして霊力を放出する。
翠紅「燃えろぉぉぉぉぉ!!!」
ドォォォォン!!!
粉は悪霊を取り囲んで爆発した。
魔法と言うものは人間の作り出した化学物質に霊力などのエネルギー物質を加えることによって出来るものなのである。
一般には、魔法陣や呪文で魔法を出すとされているがこれも、魔法陣によって霊力を集めたり呪文もその言葉によって霊力を集めたりする手段である。つまり魔力は霊力ともいえるのだ。
そして魔法使い(魔術師)と霊能力者の違いは、魔法使いは少ない霊力で悪霊に戦うためにさまざまな薬品、道具をつかう除霊者のことである。そのため、霊が見える程度の霊力があれば誰もがなれるのだ。一方、霊能力者は生まれつき持っている高い霊力で悪霊と戦う人のことであり、誰もがなれるものではないのだ。
翠紅「頼みますっ!効いて・・・・・・・」
辺りには真っ黒な爆炎が上がり悪霊を見ることは出来ない。
もう、材料の残りは無い。
これで倒れていなかったら翠紅には戦うすでは残されていないのだ。


悪霊「ふ・・・・・ふふふははははははは!!!!」
悪霊にダメージは無かった。
不適な笑みまであげている。
悪霊「では・・・・・こっちが行くぞ!!」
シュ・・・・
悪霊が消えた。
と思ったそのとき
翠紅「ぐっ!・・・・・・かはっ!!!」
悪霊の手が首に回っていて体が持ち上げられる。
悪霊「人間とは他愛のない物だな・・・・ここさえ潰してしまえば終わるのだ・・・」
ギリギリギリ!!!
一層強く握り締められる。
翠紅「はっ・・・・・・あ・・・・・ああ・・・・・・」
まともに息が出来ないので口からはよだれが垂れ流れ、頭は真っ白になっている。
悪霊「もっと嘆け!もっと恐怖しろ!お前の命はもう終わったのだ!!!」
ギリギリギリ!!!
また握り締める手が強くなった。


私・・・・死ぬんだ・・・・・・
いつも孤独だった・・・・・・・
こんな醜い悪霊にいいようにされて死んでいくんだ・・・・・・
・・・・・・・・・・・
死にたくない・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
ヤダ・・・・殺さないで・・・・・

翠紅の目には大粒の涙が零れ落ちる。
息のできない苦しさと死ぬ未練のために・・・・

???「ごめん、遅くなった!!」
ドカッ!!
一瞬目の前が真っ暗になる。
何かが横切った。
その瞬間翠紅は引き飛ばされて悪霊の手から離れる。

・・・・・・・何?
何が起きたの?

真っ白になった頭でこの状況を理解するのは難しかった。
トスッ・・・・
翠紅が気づいたころには翠紅は誰かに抱かれていた。
翠紅「ガハッ!・・・・・ゴホォ!!ゴホゴホ!!!」
一気に肺に空気が入ってきたので、すっぱい液体を出しながら翠紅は咳き込む。
???「大丈夫ですか?」
抱いている人はゆっくりと背中をさすってくれた。
その暖かい手・・・・・・
本当はゆっくり感じたかった。
???「ちょっと、冷たいですが地面で休んでいてください。」
翠紅「あ・・・・・・・・」
ゆっくりと翠紅の体が紙面に下ろされる。翠紅は何かを言おうとしたがすぐにやめた。
???「はい?」
翠紅「いえ・・・・・・なんでもないです。」
なぜか悲しかった。
いや、助けられた事ではない。人とはなれていくことが今は悲しかった。


???「さて・・・・・今度は僕と相手してくれないか?」
悪霊「はん!・・・・あの魔女より霊力低いのに戦えるのか?」
???「・・・・・・私は国府宮から着ました。」
悪霊も翠紅も動揺する。
国府宮といえばあの人たちが居る地名である。
悪霊「・・・・・・嘘つくな!そんなはずが・・・・・いや・・・お前・・霊力が無いのか・・・?」
???「すいませんね~・・・・私は霊力がありません。」
なぜか嬉しそうなしゃべり方をする。
悪霊「・・・おまえ、鬼海の影か?」
???「まあね、でも影とは嫌な言い方だなぁ・・・」
悪霊「・・・・・・」
???「まあ、お喋りはそこまで。申し訳ないけどお前を倒すのが仕事でね。」
ジャキッ!!
腰につけてある筒から片方3本の計6本の短刀を手に持つ。
悪霊「くそ・・・・・ついていないのは俺のほうかよっ!!」
悪霊がコートの男に突進していく。
翠紅「あなたは!?」
???「・・・・にこっ」
コートの男は口を開かずに笑って答えた。
ザシュ!ザシュ!ザシュ!
悪霊「おおおおおお!!!!!」
しかし、短刀が悪霊に突き刺さって思うように進めないでいた。


翠紅「その者は黒き影で、月夜の晩に現れる。

腕を振れば悪霊の腕が飛び、走れば蝶が舞うがごとく敵の動きを封じ込める

そのものが止まったときには、あたりには霊子が粉になり宙を舞うことになる。

腕をなくしても、攻撃をやめない、動ける限り攻撃をするその姿は

誰もが圧倒されるだろう」


詩を歌い終わるころには勝負はついていた。


???「・・・・・転生して罪を悔い改めよ・・・・・・」
シャキン!!!
壁に刺さった短刀をひき抜いて腰の筒に戻す。
???「・・・・・隣良いかな?」
翠紅「はい・・・・・・・」
その力に圧倒されてしまい言葉が上手く出ない。
ドスッ
やけに重量のある音がして男は座る。
???「このコート重くてね・・・・・引きこもりのオタクにはつらいよ・・・・」
ハハハと笑いながら翠紅に聞こえる独り言を言う。
2人とも満月を見ていた。
???「首・・・・・・大丈夫?」
翠紅「はい・・・・まだ痛みますがだいぶ楽になりました。」
???「ちょっと見せて。」
翠紅「・・・・・」
他人に首を見せるのは初めてだった。なんか恥ずかしい。
???「・・・・だいぶ痛んでるねぇ・・・・ちょっとまってて。」
男は肩のポケットからタバコのようなものを取り出して口にくわえる。
???「ふぅーーー。」
そして、男は首に息を吹きかける。
ちょっと冷たい。
翠紅「ひっ・・・・・・」
???「あ、ごめん。痛かった?」
翠紅「いえ・・・・ちょっと冷たかっただけです。」
男の髪の毛が翠紅の頬を触る。
こんなに他人に近づかれたのは初めてだ。
手も、体重をささえる程度なのだが翠紅の肩に乗せられている。
他人・・・・男の人にここまで接近されたのは初めてだ。
他には誰もいない。
私とこの人と以外この夜にはいないのだ。
悲しくもない。
嬉しい・・・・・楽しい・・・・・・
いえ、違う。
なんだろうこの感情。

???「終わったよ。」
翠紅「え?」
???「首のキズは治しておいたから、もう心配ないよ。」
翠紅「あ・・・・え・・・?」
触ってみると、傷もなく全然痛くなかった。
???「本当はもうちょっと早めに来る予定だったんだけど・・・・」
テレながらしゃべっている。
???「マンキツ(漫画喫茶)で寝過ごしちゃって・・・・・・」
翠紅「いえ・・・・私も力及ばずでしたから・・・・・・」
???「そういえば、君って私と同じくらい?私は今年で専門学生・・・大学生なんだ。」
翠紅「意外です。もっとお年を召していると思っていました。・・・・私も今年で大学生なんですよ。」
???「そうか~同じ年代なんだね~」
翠紅「あのっ・・・・・・・」
???「ん?」
翠紅「あ、いえ、なんでもないです。」
ただ、名前を聞くだけなのにこんなに戸惑ってしまうのはなぜだろう
自分でもそう思った。
???「じゃ、いくよ。」
翠紅「・・・・・・・・・はい。」
ダッ・・・・・
遠くに止めてあった車に乗っていってしまった。
翠紅「・・・・・・・・・・・」
じっとその車の行方を見つめる。
翠紅「もうちょっとお話ししたかったな・・・・・」
夜空に生える月を見ながらそうつぶやいた。