「突然の参観日」
・第9話:「突然の参観日」




―午後5時:国府宮神社―
ガタッ!
京子「え?なんですか?」
京子が今日の夕食で足りない物を買いに行くために外に出たときに何かが倒れる音がする。
神社の庭の真ん中にある大きな杉の木下で誰かが倒れているのを見かける。
京子「え・・・大丈夫ですか?」
あわててその元に駆け寄る。
???「う、うう・・・・・・」
かなり衰弱しているが、意識はあるようで目立つ怪我も無い。
京子「貴方は・・・・・・冬樹様ですか?」
冬樹「怖かったよぉ・・・・・・命からがらここまで逃げ出してきて・・・・・・」
京子が抱くと、冬樹も力の無い腕で抱きしめる。その手は震えていて冷たかった。
京子「大丈夫・・・・大丈夫ですよ・・・・・・」
そういって、落ち葉を三枚拾って一つは頭に、鼻の上に手に挟む。
ボンッ!
狸が葉っぱで何かを化かすように、京子は帽子、鼻にかける老眼鏡、パイプを出す。
京子「う〜ん・・・・少女脱走暴行事件ですねぇ」
その姿はまさに名探偵といったところだろうか、しかし、京子の場合は『迷』探偵になってしまうだろう。
音葉「京子さんなにやってるの?」
後ろから音葉がやってきた。
京子はポンと帽子や眼鏡を元の葉っぱに変える。しかし、頭の一枚が残っている。
京子「いえ・・・・この子が・・・・」
音葉「え?・・・・ボロボロですね・・・・・」
京子「はい、冬樹様ですからね。」
音葉「えぇぇぇぇえ!」
京子「どうやら、自分で鬼海から逃げ出してきたらしいです・・・・・」
音葉「霊力が少ないから・・・・・てっきり迷い霊かと思いましたよ・・・・」
そう、そのぐらい冬樹の霊力は無かった。
京子「とりあえず、お部屋に運びましょう。」
音葉「うん・・・・・」
冬「あ〜音葉〜やっほ〜」
音葉が後ろを振り向いたとき、聞き覚えのある声がする。
音葉「え?」
冬「その巫女さんとったぁぁぁぁぁぁ!」
音葉めがけて突進してくる。
音葉「え?えええええ!」
わけが分からず、冬の腕を取ってくるりと反転し冬のおなかを腰に乗せてそのまま腕を振り落とす。
京子「おお!一本背負い!!」
感心している場合ではない。冬は思いっきり地面に叩きつけられる。
ドスン!
冬「おう!腰打った!」
音葉「はぁ・・・・はぁ・・・・何なの、一体・・・・」
冬樹「あ・・・・・・・」
冬を見たときに冬樹はハッとした顔を見せる。
京子「うん、あれは痛いですよね〜」
冬「ふ・・・・さすが我がライバル・・・・なかなか・・・・・やるぜ・・・」
なぜか感情を込めて冬は喋る。
音葉「え?分けわかんないよ!!」
冬「はははは、ごめん・・・・・ふざけすぎた・・・・」
腰を抑えながら立ち上がる・・・しかし、腰を半分まで上げたところで止まってしまう。
冬「・・・・・・腰が上がらない・・・・・・」
京子「あらあら〜」
いかにも京子は楽しそうな顔をする。
音葉「ええ!あ・・・ごめん・・・・・」
京子「治療しますので、お部屋に来てください。」
冬「すいません・・・・・」
なんかおじいさんのような腰の曲がった格好でお辞儀をする。かなりダサい。
京子「音葉さん、冬さんを運ぶのをお願いします。私は冬樹様を運びますね。」
音葉「あ、はい・・・・」
冬「ごめん・・・・」
音葉「いいよ・・・ほら、肩を貸すから・・・・」
音葉は冬の腕をとって肩にまわす。
音葉の耳に冬の吐息が当たりくすぐったい。
音葉「はは・・・ちょ・・・・」
冬「ん?」
音葉「え?ううん、なんでもない。」
なんか冬に抱きしめられているような感じがしてちょっと恥ずかしい気分になっていた。
クリスの恋人のせいか少しだけ気になっているのでなおさら恥ずかしい。
冬「いててて・・・・・」
音葉「ごめんね・・・・・」
冬「いや、自業自得だよ・・・・」
そういって、2人は部屋の中に入っていった。
悠「ん?さっき国府宮神社に冬がいなかったか?」
たまたま通りかかった悠が不思議そうに神社の前の道を通る。
悠「まさかな・・・あいつが二股賭けれるようにもてるわけがねぇ」
そう、言い聞かせて自分の家に向かっていった。
冬「ひっくしょん!・・・うぃ〜」
そのころ冬は大きなくしゃみをしていた。
紺「あら・・・風邪ですか?」
冬「いえ・・・・鼻炎アレルギーですから・・・・・」
ズズズっと鼻水をすする。
音葉「ほら・・・寝転んで・・・・湿布貼るから。」
冬「太ももに?」
棒読みで言う。
音葉「ばっ・・・・何言ってるの!!」
琴璃「なんかお姉ちゃん元気だねぇ〜」
そばではコタツに入ってお茶をすすっている琴璃がいる。
冬「じゃあ、遠慮なく〜」
音葉「こら!冬!それはまだ早い・・・じゃなくて!湿布が貼れないでしょう!」
紺「ふふふ・・・・本当に仲がいいですね。」
音葉「ちがいます!こんな奴・・・・・・」
顔を真っ赤にさせながら反論する。
京子はご飯を作っているので、紺が冬樹様の治療を行っている。といっても外傷はあまり無いので布団を引いて寝かせる事しかないが。
冬「おおお・・・・きく・・・・・・・」
相当強く打ったようで、腰の辺りは腫れ上がっていた。
音葉「・・・・・・・・」
男の子の背中ってこうなっているのか・・・と考えてしまう。
琴璃「あれ?」
音葉「ふあぁあ!!!」
少しボーっとしていたので琴璃の何気ない一言がすごくびっくりさせる。
冬「わっ!びっくりした・・・・・」
琴璃「いや、お姉ちゃんびっくりしすぎ・・・」
冬「うん、また腰が・・・・・・」
琴璃「そういえば冬さん、この背中にある線・・・・切り込み?はなんですか?」
冬の背中には白い筋が入っていた。そこだけ妙に白くて皮膚の厚み・・・脂肪が無かった。
冬「ああ、これね、妊娠線。」
え?
冬は名前こそ女の子風だが、男である。
琴璃「え?」
音葉「なななな、誰と!クリスをおいて・・・・貴方は!!」
紺「音葉さん〜妊娠線は女の子特有のものですよ〜」
そう、男にもできなくは無いが妊娠戦は妊娠する前はやせていた女性が妊娠によって急に太る事によりできる繊維の断裂現象である。見た目では痛そうだが、全然痛くは無い。
音葉「うう〜冬に振り回されっぱなし・・・・・・」
冬「はははは・・・・・・」
琴璃「それで・・・本当にこれは何ですか?」
冬「妊娠線・・・・というと正しくないけどそれと同じ現象が起きているんだよ。」
音葉「え?どういうこと?」
男が妊娠できるわけが無い。
冬「中学校2年生のころに一回、入院してね。そのときに思いっきり体重が落ちちゃって・・・・たしか、45Kgぐらいだったかな?」
琴璃「身長はいくつあったのですか?」
冬「今と変わらず、167cmだよ。そのころはものすごく軽かった・・・・・」
45Kgといえば音葉や琴璃より軽い計算になる。
音葉「すごいなぁ・・・・そんなに軽いともてるだろうな・・・・」
冬「でもね、退院して、運動をするようになると筋肉も付くでしょ?普段運動していなかったから筋肉付いていなかったのにいきなり筋肉や脂肪が付くようになると・・・・・」
琴璃「皮膚の下にある細胞の増殖が間に合わなくなって・・・裂けてしまう・・という事ですか?」
冬「そう、そういうこと。だから妊娠線ともいえるんだよ。」
音葉「冬もいろいろ苦労しているんだね・・・・・」
冬「ははは・・・・今では思い出話だよ〜」
屈託も無い笑顔で冬は返す。
音葉「・・・・・・・わかった、いいよ、頭のせても・・・・・・」
冬「え?」
音葉「だから!ここに・・・・・・」
紺「あららぁ〜」
紺はクスクス笑いながら少し離れる。
冬「え?あ・・・うん・・・・・・」
なぜか怒られてわけの分からないまま太ももに頭を乗せる冬。
琴璃(だいぶ、気にしているようですね・・・・・)
紺(そうみたいですね・・・・自分では納得していないようですけど・・・・)
ひそひそ内緒話をしている。
音葉「・・・・・」
冬「・・・・・・」
会話が無い。
音葉「あ。」
冬「あ。」
声が重なる。
音葉「え?どうぞ?」
冬「あ・・・うん・・・・」
話が続かない。
というか、話題が出てこないのだ。
冬「・・・・・・・・」
音葉「・・・・・・・・」
音葉「あ、耳掻きやるよ・・・・」
冬「うん、お願いしようかな・・・・・」
このまま会話が無いのは苦しいので思ったことを喋る。
冬「ねえ、巫女さんって大変なのかな?」
音葉「ん〜そうでもないよ、肉体労働なんてあまり無いから・・・・まあ、朝早いのがつらいかな?」
冬「朝か・・・・・僕、低血圧だから朝は弱いからなぁ・・・・絶対になれないな・・・」
音葉「鉄分とらないと〜」
冬「お嬢ちゃん・・・血を分けてくれないかねぇ・・・・」
グサッ!
冬「いや・・・・奥まで!!・・・耳!!」
音葉「あっごめん!ちょっと想像しちゃった!」
どんな想像だろうか?
冬「うう・・・・たぶん、一般では最高のシチュエーションなんだろうけど・・・・人が・・・」
音葉「え・・私じゃ・・・・だめ・・・なの?」
なぜか泣き顔になる。
冬「え?え?どうなってるの?」
グサッ!
冬「のお!また奥に・・・・・・・・」
音葉「なんてね〜。どう、かわいかった?」
冬「く・・・こんどは僕が踊らされてる・・・・・・」
音葉「はい、片方は終わったよ。」
冬「あ・・・うん・・・でもなんで、いきなり?」
音葉「・・・いや、なんかこの傷みていたら・・・・冬が苦労人に見えてね・・・・」
冬「あ〜皆言うんだよね・・・・まあ、8ヶ月間も入院していたけど、それはど苦にはならなかったけどね。」
音葉「8ヶ月も!?」
冬「うん、8ヶ月間病室から出た事無かったね。あの時は・・・・・しかも、最初の一ヶ月なんてお風呂は入れなかったし、出す物はすべてベッドに横にある「おまる」だったんだよ〜」
「おまる」とは、よく赤ちゃんが使う排便をするための物である。一般的にはアヒルの形をしていることが多い。
音葉「・・・・・ごめんなさい・・・・その・・・腰を・・・・」
冬の話はどう考えても笑い話にはならない気がする。骨折でも1ヶ月も入院するのは珍しいのに、冬はその八倍を行く8ヶ月なのだ。どう考えても重病によっての入院しか思えない。
冬「いや、謝らなくていいよ。過ぎた事だし自分ではなんとも思っていなからね。」
音葉「でも・・・・」
音葉には冬のその切り替えの良さが分からなかった。当然冬は重い病気で入院した。そしてそのときの経験は心の中に残っていてのいいはずだ。と思ってるからだ。
冬「・・・・ありがとな、音葉。でも本当に心配ないよ。僕だってこの病気・・・は怖いと思っているし、二度と起きて欲しくないと思っている。でも、この入院によって教えられた物もあるんだよ。」
冬「まずは、仲間の大切さ・・・・僕が入院したのは5月だった、そのころはまだクラスにもなれていなくてほとんどの顔を覚えていなかった。でも、そんな僕に、クラスの仲間は千羽鶴を織ってくれていたんだ。しかも、手紙を添えて・・・・・あの時はうれしかった・・・・・もちろんその千羽鶴は部屋に飾ってあるよ。ちょっと邪魔だけど。」
音葉「・・・・・・」
耳かきを動かす手が止まる
冬「あともう一つは命の大切さ。高校1年までは小児科に行くんだけど、そのとき僕は中学2年生で当然、小児科に行くんだけどそのときに知り合った友達がね・・・・あの子はどうなったのかな・・・・・僕以外の子は皆、白血病だったんだよ。頭は髪の毛が無くて、肌色は真っ白。でも、とにかく元気だった。そのこたちといろいろゲームとかして遊んだんだよ。」
音葉「・・・・・」
冬「で、次の日のベッドを見ると、何も無いんだよ、その子も、私物も・・・・それで、看護婦さんに聞くと。『あ、あの子ね・・・ちょっと具合が悪いから個室に言ったよ』って・・・・・個室に行くって事はかなり危険な状態なんだよ。ばい菌が入らないように徹底的に除菌のされた部屋にいったんだよ・・・・」
音葉「その子はどうしたの・・・・・・?」
冬「わからない・・・・・でも最後まで会えなかった。最後に挨拶しようと持ったんだけど、止められちゃって・・・・・・」
音葉「・・・・・・・・・・・」
冬「あ、ごめん・・・・しんみりしちゃったね・・・・・・」
音葉「ううん、やっぱり冬は強いね。私話を聞いただけで悲しくなっちゃうのだもん・・・・」
冬「僕が白状者なのかもしれないよ?」
音葉「そんなことは絶対無い!!」
冬「え?」
いきなり音葉が怒鳴る。
音葉「冬は、いい奴だよ・・・・そして、真っ直ぐに事実を受け止めいているから心が強いんだよ。」
冬「そんな・・・・のかな?」
音葉「そうだよ・・・・・・」
京子「あの・・・・冬さん・・・・・」
申し訳なさそうに京子が入ってくる。
京子「今日のご飯どうしますか?」
冬「え?・・・・・・」
紺「あ〜もう8時回ってますね。」
冬「あ〜もう夕飯の時間ですか・・・・・」
京子「とりあえず、冬さんの分まで作っておきましたけど・・・・」
冬「え〜どうしようかな・・・・・」
紺「私たちはかまいませんよ。」
琴璃「トマッチャエ〜(棒読み)」
音葉「なんで琴璃はそんなに他人行儀なの?」
琴璃「だって、泊まる事になったら・・・・・夜が楽しみです〜」
紺「ですねぇ〜」
京子「じゃあ、電話はこちらでして起きますね。」
冬&音葉「ちょっとまて〜〜」
冬「何勝手に決めてるんですか!」
音葉「そうよ!冬はクリスがいるんだから!私は関係ないでしょ!」
冬「って、京子さん!何電話しているのですか!・・・・・・・いや、何で電話番号知ってるの?」
京子「え〜と永月さんのお宅ですか?はい、はい、私、神谷という冬さんの友達のお母さんですが・・・・・はいはい・・・・」
音葉「・・・・・・・だめだ・・・・・冬・・・あきらめよう・・・京子さんは結構しぶといから・・・・」
冬「・・・・・はぁ・・・何でこうなるのかな・・・・」
琴璃「じゃあ、私お姉ちゃんの部屋にもう一個布団もって来るね〜」
音葉「え?なんで!来客用のお部屋があるじゃない!そこで寝てもらえば・・・・」
紺「あ、あそこ私が使ってます。」
音葉「だったら、私と冬・・・・じゃない、冬と紺さん・・・・ああ、違う!・・・」
冬「音葉とりあえず落ち着け。」
なぜか冬は音葉より冷静だった。
音葉「うん・・・・・」
冬「で、私の寝る場所はどこなのですか?」
紺「音葉さんの部屋です。」
冬「・・・・・・デジマ?」
紺「・・・はい、マジデ。」
冬(ねえ、この人たち僕たちの反応を見て遊んでないか?)
音葉(そうみたい・・・・・)
というか、仮にも紺と京子は保護者的存在なのだ。まだ、子供っぽいところがあるとはいえ、高校3年生の男女がひとつの部屋で寝るのはどうかと思うが。
京子「とりあえずご飯にしましょう。おでんが煮えてしまいますよ〜」
卓袱台(ちゃぶだい)の真ん中にドンッと大きな鍋を置く。
琴璃「わ〜温まりそうですね〜」
京子「今日もとても冷えるので鍋物がいいとおもいましてね〜」
鍋の中の具はいい感じにグツグツに煮だっている。
紺「冬樹様、ご飯食べれますか?」
冬樹「うん・・・・食べれるようになりました・・・・いいですか?」
京子「はい、いつもよりかなり多めに作りましたからね〜」
音葉「考えるのは後にして食べるぞ〜」
冬「あんたはおっさんか?」
音葉「あっ・・・・」
音葉がわざとらしくはんぺんを冬の顔につける。
冬「あつぃ!」
音葉「ごめん遊ばせ〜」
冬「うう・・・・体罰反対〜」
京子「こらこら、音葉さん抑えましょうね。」
冬「ん?・・・・ここって・・・・・・」
紺「どうしましたか?」
冬「男は僕以外いませんね〜」
琴璃「お父さんが亡くなってから、男の人がいることはなくなりましたね。」
冬「通りで居辛いと思った・・・・・・」
男の子なりの話ができないのは冬にとってちょっと寂しかった。
冬樹「ねえ、お兄ちゃん・・・・」
冬「ん?」
隣に座っていた冬樹が冬のすそを引っ張る。
冬樹「ご飯食べたら、少しお話しませんか?」
冬「それは・・・・・・・」
一瞬目が光るが、すぐに戻る。
冬「分かりました。・・・・・」
夏樹「ねえ、夏樹も一緒にいい?」
冬「ええ。」
音葉「?」
琴璃「・・・・・・・」





冬「そうでしたか・・・・・・・・」
冬樹「音葉さんと琴璃さんには知らせてないのですか?」
冬と夏樹、冬樹はご飯を食べ終わったらすぐに縁側に出て行ってしまった。
冬「知らせても・・・・すぐに2人からはいなくなるのですから・・・・そのときが来るまで黙っておきますよ。」
夏樹「今度はこの体なの?」
冬「そうみたいです。今回で終わらせたいですが・・・・・・」
夏樹「ん、夏樹もそうしたい。」
冬樹「ですね〜」
音葉「ねえ、前から思っていたけど、夏樹様に冬樹様・・・なんであんなにも初対面の冬にあんなに話せるのかな?」
縁側の端から音葉と琴璃がのぞく。どうやら夏樹が結界を張っているせいでそばに行く事も声を聞くこともできない。
琴璃「そうですよね・・・・こんな結界を張るのもおかしいですし・・・・・」
冬「冬樹様・・・鬼海はどうでしたか?」
冬樹「・・・今までの中で一番強い・・・・まだまだ勝てそうに無い・・・」
冬「そうですか・・・・・・」
夏樹「冬・・・・海・・・・対になる者・・・・それは決して交わる事の無い決別の仲。」
冬樹「その2人が交わったとき、未来は持ち越されるであろう。」
冬「そのいがみ合いを解く事ができるなら、世界は平穏に包まれ二度と恐怖による支配はなくなるだろう・・・・・」
夏樹「全部おもいだした?」
冬「はい・・・・まだ、思い出したから時間はたっていませんが、全部思い出しましたよ。」
冬樹「・・・・また、この季節になってしまったのですね・・・・これはあまり見たくないことですが・・・・」
冬「でも、今までやってきたことは逃げていただけです。今度こそ正面から向かわないと・・・・・」
縁側から見える大きな月にこぶしを立てる。
冬「・・・・・このごろ多発している児童の殺人事件って・・・・・・」
児童の殺人事件というのは、全国で起きている外国人が小学生の女の子を殺すとか、塾の先生が殺してしまったとか言われている最近の出来事だ。しかも、最近はこういう事件が連続的におきている。
夏樹「ん、鬼海の僕(シモベ)のせい・・・・・」
冬樹「・・・・・あのころは魂が純粋ですからね・・・・・・」
そう、生まれてから小学生までのころは魂が純粋なので鬼海などの力を欲している者としては格好の餌になる。だから、普段から負のエネルギーを出している(ストレスとか、体に怒りや悲しみをためている人)を操り、小さい子を殺すのだ。そして、殺された子から出た魂を自分の霊力の一部にするのだ。大人でもできるのだが、その魂は純粋でなく自分の霊気と合わない場合があるのでまず、大人を殺すよりは子供を殺すのだ。
冬「早く何とかしないと・・・・・」
夏樹「ん。」
冬樹「そうですね。」
3人は大きな月をみる。
そこには、満月とは行かないが大きくて丸い月がある。しかも、この稲沢という町は、市としては栄えているほうだと思うが、まだ田舎なので空気が澄んでいて星も結構見える。
冬「ちっぽけな存在だなぁ・・・・・」
冬樹「ですねぇ・・・・・」
夏樹「ん。」
淡い蒼い夜。
完全に黒ではない。蒼い色をしている空。
そのあちらこちらに白く輝く星たち
それが、自分の存在を小さくする。



―音葉の部屋―
音葉「ねえ、冬・・・・・起きてる?」
冬「うん・・・・・」
部屋の中央に二つの布団。そして2人は背中を向け合うようにして入っている。
冬「・・・・・眠れないね・・・・」
カチ・・・カチ・・・カチ・・・
時計の音がやけに耳を突く。
音葉「うん・・・・・」
いつも強気の音葉もこのときだけはおとなしい。
音葉「ねえ・・・・・・」
冬「ん?」
音葉「・・・・・・いや・・・なんでもない・・・・・」
冬「そう?」
音葉は布団に入ってからずっとこの調子だった。
音葉「・・・・・・・・・・」
冬「・・・・・・・・・」
カチ・・・カチ・・・カチ・・・
耳が圧迫されそうな時計の針を打つ音。普段なら気にならないはずの音がこのときだけは激しく気になる。
冬「ねえ、音葉。」
音葉「ん?なに?」
冬「ごめんな。」
音葉「え?どうしたの・・・急に・・・」
冬「いや、なんかいろいろ迷惑かけっぱなしで・・・・・」
音葉「そんなこと無いよ・・・・」
冬「私・・・・外で寝ようか?」
音葉「え?」
冬「いくら、馬鹿とはいえ、男と一緒に寝るのは嫌だろう?だから、外で寝ようかって?」
音葉「ううん、たまには冬・・・・・男の子と一緒に寝ることもいいよ・・・・・」
冬「そうか・・・・ごめんな。」
音葉「うん・・・・・・・」
話の文節の空白が長い。お互いに意識し合っていて思うように喋れない。
冬「ねえ、話し変わるけど・・・聞いていい?」
音葉「話せることならね・・・・」
冬「音葉には・・・尊敬する人とか・・・・好きな人っているの?」
音葉「・・・・・どうかな・・・・・」
冬「・・・・・」
音葉「気になっている人はいると思う・・・・でも、自分がどのような気持ちなのかが分からない・・・・・」
冬「そうか・・・僕も同じような物かな・・・・・お互い気になっていると思うけど。それが本当にその気持ちでいいのかが分からない。もしかしたら、それは全然違う気持ちなのかもしれない・・・・・だから、2人ともまだ一歩を出さずにいる・・・・」
音葉「冬・・・・・・・」
冬「自分かかわいいのかな・・・・・自分のことなのに、自分の気持ちが全然わかんないや。」
音葉にはいまの冬がすごくけなげで可愛そうに見えてきた。
音葉「・・・・・・」
ギュ・・・・
音葉が思うより先に行動していた。
音葉も信じれなかった。
しかし、目の前には冬の背中がある。
私の手は・・・・・・
冬「音葉?!」
音葉「私も・・・・自分の気持ちがまとまらない・・・・」
ギュ・・・・・
一層力をいれていた。
私は何をしているのだろう・・・・
こんな・・・・好きではない人を・・・・
気になってはいるけど・・・・・・・
決して好きではない・・・・・
でも・・・・・
ドクン・・・・
自分の鼓動が聞こえる。
ドクン・・・・
妙に落ち着いている・・・・
仮にも男の人を・・・・・しているのに・・・・
ドクン・・・・
だんだんと違う音も聞こえてくる。
ドクンドクン・・・・・・
続いて鼓動する心臓の音。最初のは私で、後のは彼。
決して重なる事の無い音。
冬は何も返さない。
いや、返せない。
それが悲しい。でも、そのほうがうれしい。
・・・・・・
私の歯車はどこにあるのだろう・・・
決して動く事の無い機械の歯車。
ぽっかりと明いたそこにはまる歯車はあるのだろうか・・・・
彼の歯車は入るのかな?
多分入らない。
彼のは・・・・大きすぎるから・・・・
私のでは小さすぎる。
そう、私では―――