「ひのとひつじ」
・第7話:「ひのとひつじ」



音葉「でもなんで・・・・・まあ、幼馴染なのは分かるけど・・・・」
早朝、音葉は神社の庭の掃除をしていた。今日は土曜日なので学校は無い。
琴璃「お姉ちゃん、何そんなにブツブツつぶやいているのですか?」
隣には琴璃がいたが音葉は気づいていないようだった。
琴璃「お〜い・・・・・」
音葉「ああん、もう、」
音葉「冬の馬鹿野郎――――――!!!」
冬「すっ、すみません!」
なぜか、冬が神社の門の前にいた。
琴璃「え?え?え?」
いきなり怒鳴って、しかも出てこないはずのその対象が顔を出したので琴璃が戸惑うのも無理は無い。
音葉「え?なんで冬が・・・・・」
冬「いや・・・・ここを舞台とした小説書くための資料集めしていたんだけど・・・・」
琴璃「へえ〜小説も書いているのですか〜」
冬「まあね・・・でもまだ文の書き方は下手くそだよ・・・・」
テレながら冬が喋る。
音葉「でも、なんでこんな早くにいるのよっ!」
それもそうだった、いまは朝の8時。休日ならもっとゆっくりしていてもおかしくは無い。
冬「あ〜妹が部活の関係で7時に起こされるんだよ・・・・そうしないと朝ご飯食べ損ねるから・・・・」
琴璃「そうだったのですか〜」
音葉「あ・・・そう・・・」
音葉が粋がっても暖簾に腕押し、糠に釘だった。ことごとくかわされてしまう。
琴璃「ここを舞台ということは、私たちも出るのですか?」
冬「う〜ん・・・・名前と性格は変えるけど、双子の巫女さんってことで出すと思うよ〜。何せこの話は、巫女の悪霊退治ですからね!まあ、物語ですけどね〜」
しかし、それは現実に起こっていることである。
音葉「ふ〜ん、それで私たちはどんな人なの?」
冬「え・・・・・言うの?」
琴璃「ここまではしておいて出し惜しみは無いですよ〜」
冬「とりあえず、設定集だけ渡すよ・・・・恥ずかしいから早く読んでね。」
背中に背負っていた小さめのリュックから2〜3枚の紙を渡す。
音葉「え〜!私たち主人公!」
琴璃「ほうほう・・・・」
冬「いや、そんな大きい声で言わないで・・・・・」
夏樹「ん?なに?」
いつの間にか夏樹まで来ていた。
冬「わ〜なに?2人の妹さん?かわいいなぁ〜。僕、子供好きで〜」
そういって夏樹を抱っこする。
夏樹「誰?」
冬「僕は君のお姉ちゃんの友だちの「冬」っていいます〜」
夏樹「夏樹、よろしく。」
そういって夏樹は飛び上がり冬の背中に乗る。
冬「お、肩車?よし、いくぞ〜」
タタタタタ・・・・・
神社の周りを駆け回る。こう見ると兄と年の離れた妹のようだ。
夏樹「お〜〜〜」
夏樹は手を広げて風を切る。
音葉「ありがとう、冬・・・・・・ああ!」
琴璃「え?どうしたの・・・・・・・あっ!」
そこにいたのは神様を肩車する冬の姿。
音葉「冬!何やってるの!早くおろして!」
琴璃「ああ・・・あああ」
冬「大丈夫だよ。しっかり持ってるから〜」
夏樹「大丈夫。」
2人は安全面で心配しているわけではない。夏樹は仮にも神様でありこの町の守り神である。上の立場にはそれなりの配慮が要るのだ。
音葉「夏樹様!そんな冬からおりてください!」
琴璃「そうですよ、もしも夏樹様に何かあったら・・・・」
2人はとめどなく取り乱す。
冬「・・・・・・(ニヤリ)」
夏樹「ん?どうした冬?」
冬「夏樹ちゃんちょっと耳を・・・・・・・ゴニョ、ゴニョ・・・・」
夏樹「ん。うん、やって。」
二人も目が輝き始めている。何か嫌な予感がする。
冬「よぉし!お姉ちゃんに体当たりだぁ!」
タタタタ・・・・・
冬が音葉と琴璃に目掛けて走ってきた。このままだとぶつかるのは目に見えている。
音葉「え・・ちょ・・・・ええええ?」
琴璃「あぶないですよ!」
冬「あっ・・・やば・・・足が・・・・」
半分くらい近づいたぐらいのときに冬が地面の砂利に足を取られてバランスをくずす。
音葉「え・えええ!まって!やめてっ!」
琴璃「あぶない!」
冬「ははははは・・・・・お二人さん名演技ありがとうね〜」
音葉と琴璃はその場でうずくまり耳をふさいでいた。
夏樹「ふたりとも・・・・おもしろかった。」
ちょこんと冬から降りて音葉と琴璃の肩を叩く。
冬「巫女さんのあわてる姿なんて漫画でした見た事無いから・・・いいもの見させてもらったよ〜。」
あとからゆっくり歩いてくる冬の姿があった。
音葉「・・・・・・・・」
琴璃「・・・・・・・・」
2人とも固まってしまっている。
冬「あれ?そんなに悪い事だった?」
音葉「ひぐっ・・・・うう・・・ひどいよ・・・・」
琴璃「ひっく・・・・あんまりですよ・・・・・」
冬「あれ?・・・・・・」
2人とも泣いてしまった。よっぽど緊張していたのだろう。
冬「・・・・・参ったなぁ・・・・・」
夏樹「冬・・・どうしよう・・・・」
このままほうっておけるはずも無く、
冬「その・・・・ごめんなさい・・・・悪ふざけしすぎました・・・」
夏樹「ごめんなさい。」
2人とも頭を下げる。
やはり女の涙は偉大である。
音葉「ひっく・・・・うぅ・・・・」
琴璃「ずず・・・・う・・・・」
京子「あれ?ふたりともうずくまってどうしているのですか?」
紺「こんな朝から・・・・おなか冷やしましたか?」
騒ぎを聞きつけたのか、京子と紺が建物の中から出てきた。
冬「あ・・・・」
夏樹「冬と肩車していて、悪ふざけして泣かせちゃった。」
夏樹が京子の元にかけついて京子の足にしがみつく。
冬「あ、すみません・・・泣かせちゃって・・・・」
京子「いえいえ、ちょっと刺激が大きかったのですよ。」
紺「夏樹様を肩車するだけで勇気が要りますからね。」
冬「あ、ごめんなさい・・・・」
紺「いえ、謝らなくていいですよ。ぞれじゃあ、お部屋に戻りましょうか。」
夏樹「ん。冬・・・ごめんなさい。」
冬「いえいえ・・・・」
京子「しばらくそっとして置きましょう・・・・冬さんですか・・・お部屋へどうぞ。」
冬「いえ、ちゃんと謝りたいですから・・・ここにいていいですか?」
京子「はい、寒くなったらいつでもおいでください。」
冬「はい。」
ザッザッザッ・・・・・
地面の砂利が蹴られる音がする。3人はまた建物の中に入ってしまった。
冬「・・・・・・・・ふうっ・・・」
天気予報によると今日の気温は5度が限界だそうだ。動かないと寒い。
冬「・・・・・2人とも巫女服なんだよな・・・・」
バサッ・・・・・
音葉にはジャンパーを琴璃にはセーターを着せる。どう考えてもその服では寒いだろう。
冬「・・・・さむっ!やっぱり2枚だときついなぁ・・・」
少しの時間がゆっくりと流れた。
音葉「ああ、ごめん。急に泣いたりして・・・・・」
琴璃「私も・・・・ごめんなさい。」
冬「いや・・・・あそこまで思っているとは思っていなかったから・・・・」
音葉「うん、もうよし!」
琴璃「あ、これ・・・返しますね。」
涙にぬれている紙を冬に返す。
冬「本当にごめんね〜」
音葉「気にしないで〜私たちも悪いのだから・・・」
琴璃「そうですよ〜」
音葉「ねえ、なんでその小説の舞台がこの神社なの?ここの町にはまだ神社あるよね?」
冬「いや、最初は「矢早稲観音」にしようかなって思ったんだけど、最近嫌な噂が立っていてね・・・・」
琴璃「嫌な噂?」
冬「そう、あそこのちかくで最近不可解な事件や出来事がおきていてね・・・・あそこを通った人が急に人相が変わったように誰かを襲ったりしたり・・・・・そんな話が出てきているよ。」
音葉「ふん・・・・・気になるわね・・・・・」
琴璃(これって悪霊の仕業ですよね・・・・)
そっと琴璃が耳打ちする。
冬「ぼくだって噂だけなら、そう信じない人なんだけど・・・・見たんだ・・・人の体から沢山の・・・霊・・・なのかな?分からないけど変な生物を出す変な人・・・・」
音葉「体から生き物を出す・・・・・・」
琴璃「他の人は見ていたのですか?」
冬「ううん、そのときに他の人にも知らせたのだけど・・・・・そんなのいないよ?って言われて・・・見えてないようだったよ。」
音葉「そう・・・一度行ってみるね。ありがとう。」
冬「いや・・・・こういう事はなすのは霊媒師だったかな?」
琴璃「いえいえ、私たちもそんなような活動をしていますから、ありがとうございます。」
冬「しかし・・・・2人の巫女服・・・・いいなぁ・・・・」
話し終わったとたんに顔を緩ませる。
音葉「やだっ・・・・そんな目で見ないでよ!」
琴璃「う・・・・・・・はずかしい・・・・」
冬「ははは・・・・ごめんごめん・・・・じゃあ、いくよ。今日はごめんね〜」
音葉「またどこかに行くの?」
琴璃「がんばってくださいね〜」
冬「これから友だちと名古屋だよ〜」
冬はぶんぶん手を振ってくるりと向きを変えて、自転車のほうへ向かった。
冬「Comment, la maniere il y a un bonheur dans la mere sainte」
【聖母たちに祝福があらんことを】
冬は二人に分からないようにそう呟いた。そして、少し笑ったという・・・・
音葉「京子さん〜」
京子「はい?」
2人が居間に戻ると、京子、紺、夏樹はコタツの中で芋虫になっていた。
琴璃「なんかリアルな幽霊ですねぇ・・・・」
冬の言っていた霊と同じ存在とは思えないほどの緊張感の無い3人だった。
紺「え?なんですか?」
今までの話の趣旨を知らない3人は琴璃の言葉が良く分からない。
音葉「矢早稲観音の噂って知っていますか?」
京子「矢早稲観音ですか?そういえば最近連絡ないですね〜」
紺「あちらのほうはあまり行かないから疎いのですよね・・・」
琴璃「なんでもそこに出るそうです・・・・しかも、結構強いのが・・・」
京子「それは本当ですか?」
音葉「さっきまでいた冬の話だと、体から僕【しもべ】を出す幽霊が見えたそうです。」
紺「僕まで出すようになりましたか・・・・・かなり強いですね・・・・」
幽霊の力は霊力である。僕を出すという事は自分の霊力をその僕に分け与えなくてはいけないので低級の悪霊には真似はできない。
琴璃「だから、矢早稲観音に連絡は取れないですか?」
京子「うん・・・・紺は念で直接神様に問い合わせてみて!」
京子は今にある電話に電話をかけ始める。
紺「分かりました。」
音葉「・・・・・・」
琴璃「・・・・・・」
京子「・・・・・・・・」
紺「・・・・・・・」
夏樹「・・・・・霊力が低い・・・・・かなりあぶないかも・・・・」
京子「だめ、つながらないです・・・・・・」
紺「こっちもダメです・・・・呼びかけに反応していません・・・・・」
夏樹「夏樹がやる・・・」
そういうと夏樹は両手を合わせてそれを額におき、祈り始めた。
音葉「お願いします・・・」
夏樹「・・・・・冬樹(フユキ)・・・・どこにいるの?」
冬樹とは矢早稲観音の神様の名前だ。なつきと似ている名前なのは、その地方の人が夏樹に肖ってつけたためとされている。
夏樹の念は世界中どこでも使えるような念を持っている。
夏樹「冬樹・・・・・大丈夫?・・・・・そんな・・・・・・うん・・・・わかった・・・」
当然念じている言葉は他の人には分からない。
紺「どうでしょうか・・・・・」
夏樹「・・・・・冬樹は取り込まれたみたい・・・・・しかも、早稲観音の住職さんたちはもういないって・・・・」
京子「・・・・・それって・・・・」
音葉「矢早稲観音は乗っ取られている・・・・・」
寺や神社が乗っ取られるという事は過去300年間無かった事だった。あったとしたら紺が活動していた300年前にあった「天界の変」以来だった。
紺「やはり・・・・・・この歴史は繰り返されるしかないのでしょうか・・・・・・」
琴璃「そんな・・・・・ここまで霊の進む速さが早いのですか・・・・・・」
神様が悪霊に乗っ取られている。その事実は皆を重くする。神様といえば霊界の中のトップの存在である。いくら、霊力の弱い神様であっても、一般の巫女が勝てるような相手ではない。
京子「わたし・・・・・行きます。」
紺「え?」
京子「ここ1000年間私はずっと皆さんの帰りしか待てませんでした・・・・・皆さん私のことを心配して残してくれるのはうれしいですが・・・私だって皆さんの役に立ちたいのです!」
いつもと無く真剣な京子がそこにいた。
いつも見送る事しかできない自分・・・・・どんなに音葉や琴璃が傷ついても看病しかできない・・・・そんな自分が嫌いだったのだ。
紺「京子・・・・・でも、あなたは力を解放すると前に記憶が・・・・・」
京子「大丈夫です。1000年も経っていればそんな記憶忘れていますよ。」
音葉「・・・・・私は京子さんを信じます。」
琴璃「わたしも・・・・たぶん京子さんと同じ境遇にあっていたら同じ事言っていると思います。」
紺「2人とも・・・・」
京子「ありがとうございます・・・・・夏樹様・・・・・」
視線は夏樹に集まる。京子は夏樹の使い魔なので直接の決定権は夏樹にある。
夏樹「戻ったら容赦しないよ。」
ニコッっと笑顔で答えた。OKのようだった。
京子「ありがとうございます・・・・じゃあ、支度してきます・・・」
紺「ついに京子まで戦いに来る事になりましたか・・・・・今回の敵はつらそうですね・・・」
夏樹「今度こそとめなくちゃ・・・・・」
この戦いは300年の周期で繰り返されているのだ。始まりは900年前にさかのぼり過去に2回あったがその2回とも鬼海を倒したはずなのに、また出てきているのだ。鬼海ができるのには普通1000年は必要なのだ。まあ、ここら辺の土地は昔から霊気の多い土地として幽霊が多かったのだが、それにしても300年に1回のペースは速すぎる。何かがあるようだ。
紺「それで、いつ行きますか?」
音葉「速いほうがいいのではないですか?」
琴璃「でも、京子さんいきなり本番って言うのは・・・・・」
紺「京子さんしだいですね。」
京子「おまたせ〜」
巫女服姿の京子が現れた。いつも割烹着なので少しだけ若く感じる。
琴璃「まったく一緒になってしまいましたね・・・・」
音葉「入れ替わっていても分からないですね・・・・」
同じ姿、同じしぐさ、同じ服なので区別をつけようが無い。
京子「ふふふ・・・・でもよく900年間この服が無事なのに驚きですよ。」
紺「霊気がこめられている糸で織ってあるりますからね、年月の風化では破れたりなんかませんよ。」
霊気をこめて編んだ布はざっと4000年はもつとされている。
京子「じゃあ、ちょっと力の解放をしてみますね。」
音葉「はい、私も行きます。」
琴璃「私も〜」
そして皆は鍛錬場にやってきた。
京子「久しぶりなのですごく緊張しますね・・・・・」
紺「あぶなくなったらすぐにやめてくださいね。」
夏樹「しっかり!」
京子「はい、分かりました。」
そういうと、京子は真剣を持って精神統一をし始める。
京子「・・・・・・・・・・・・・・」
音葉「・・・・どんどん霊力が上がっている!!」
琴璃「すごい・・・・・」
ガタガタガタ!!!
あたりのものがゆれ始め、ひとりでに動き始める。
京子「あと半分・・・・・・・・・・・」
シュー・・・・・
京子の持っている真剣はごく普通の真剣なのだが、それが光りだして湯気が立ち始めてきた。
音葉「え?どうなってるの?」
琴璃「湯気が・・・・・・」
紺「え?まさか・・・・・・霊力の暴走しはじめたのですか?」
京子「う・・・・うう・・・・・ウウウ・・・・」
京子が危険な状態に入っている事は分かるがどうなっているのか湯気のせいではっきりしない。
夏樹「だめ・・・・京子が・・・・京子じゃなくなる・・・・・」
夏樹がおびえ始めた。やはり暴走しているようだ。
京子「フフフ・・・・1000年に渡る長き封印が解かれた・・・・我は自由だ・・・・」
そこにいたのは完全に今までの京子ではなかった。1000年前にこの地を恐怖に落とした悪霊と化していた。
紺「まさか・・・・・・・」
夏樹「・・・・・・・・・おわった・・・・」
京子「久しぶりだな・・・紺・・・夏樹・・・・・1000年越しの復讐ができるなんて夢のようだよ。」
音葉「京子・・・・・・さん?」
琴璃「そんな・・・・闇に飲み込まれちゃうなんて・・・・・」
京子「おや、この2人が新しい巫女か・・・・フン・・・・霊力が無さ過ぎる。そんなので私にたたかえると思ってか!」
京子は恐ろしい形相でにらみつけて音葉と琴璃を威嚇する。しかも、いままで耳だけ獣の形をしていたのだが、こんどは九尾の狐の尾が生えている。
音葉「琴璃・・・・分かってる?」
琴璃「はい、分かっています!」
ジャキン!
音葉は薙刀(なぎなた)を持って、琴璃は弓矢を構える。
紺「よしなさい!・・・私でも太刀打ちできない相手です!」
音葉「分かっています!でも・・・・何もしないよりはマシです!」
琴璃「すみません・・・・私たち馬鹿ですからっ!」
そういって霊気を開放する。いつもより2人からは強い霊気が出てきている。
京子「はははは・・・・心地よい霊気だ・・・・・よかろう、この一撃でしとめてやる!」
カチン!
真剣を両手で持って剣道などの構えをする。
ギリギリギリ・・・・・
琴璃の弓がはちきれんばかりにしなっている。
琴璃「京子さん!目を覚ましてください!!」
ヒュン・・・・・トスッ!
琴璃の一撃から音葉も飛びつき戦いになってしまった。
キィン!
京子「はぁあぁぁぁぁ・・・・・はずしたようだな・・・・」
音葉「そんな簡単に倒せる相手だとは思ってません!」
ガリガリガリ!
刃と刃がこすれる音が響く。
音葉「えい!えい!えい!」
ヒュン!ヒュン!ヒュン!
音葉が薙刀で切りつける。しかし、すべて見切られてしまう。
京子「まだまだ・・・・・力が足りないなぁ・・・・・」
琴璃「お姉ちゃん!あわせます!」
音葉「分かった!」
ヒュン!
キン!
京子「こんな攻撃など・・・・・」
音葉の攻撃ははじかれてしまう。しかし、その隙を琴璃は見逃さなかった。
ドスッ!
見事、京子の肩に弓が刺さる。
京子「なに!・・・・くそ・・娘と思って油断した・・・・・次からはそうはいかないぞ!」
音葉「・・ヵえしてよ・・・・・私の京子さんを返してよ!・・・・」
琴璃「あなたがいるから・・・・・京子さんは苦しい思いをしないといけないのです!」
だんだん2人の霊圧が上がっていく・・・
紺「すごい・・・・2人ともどんどん霊力が上がっています・・・・・」
夏樹「巫女の覚醒・・・・聖母の誕生・・・・」
音葉「私は貴方を憎みます。」
琴璃「排除・・・・します・・・・・」
音葉と琴璃の顔が一層険しくなって、今まで見た事の無いような冷酷な顔つきになる。
京子「おうおう、こわいねぇ・・・・」
音葉「・・・・いきます・・・・」
シュ・・・・キィンッ!
音葉の攻撃は軌道が分からないほどに速度が上がっていた。
京子「なに・・・・・・まだ強くなっているのか・・・・・」
ドコォォォォン!
京子が戸惑っているときに今度は弓矢が飛んできて京子の肩をえぐる。しかも、矢が行ったあとに音が聞こえるぐらいの高スピードで飛んでいる。
京子「そんな馬鹿な・・・・・我の腕を持っていっただと!・・・・・」
ドスツ!
喋り終わる前に音葉が薙刀を突き刺していた。
京子「くそ・・・・1000年のときを経て復活したのに・・・・もう消えるのか・・・・」
だんだん、京子の顔がいつもの京子の顔に戻っていき、目を閉じた。
音葉「京子さぁぁぁぁん!」
京子が倒れるのを見るや否や、二人の感情は正気に戻り、我に返る。
琴璃「う・・・・私たちは・・・・・何ということを・・・・・・・」
2人とも京子に駆け寄り声をかける。
腕は持ってかれて、おなかに刃が刺さっていたら霊も大地に消えていく。
音葉「ねえ・・・・京子さん・・・・起きてよ・・・・一緒に霊をやっつけるのでしょ・・・」
京子はピクリとも動かない。
琴璃「うっ・・・・うっ・・・・・・」
さっきまで泣いていたのに、また涙が止まらなくなる。
紺「貴方たちは悪くないのです・・・・・・・」
夏樹「・・・・・・・・」
夏樹も紺も慰める言葉が無かった。ただただ、2人を見ているしかない。
音葉「おいしいご飯をまた作ってよぉ・・・・・ねえ・・・・・」
琴璃「・・・・・行かないで・・・・・・」
・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
30分がたった。
相変わらず二人は泣いていて、その横で紺と夏樹は立ったままだ。
音葉「ごめんなさい・・・」
琴璃「ごめんなさい・・・・」
死人にくちなし。京子は動かない。
音葉「もっと上手にやっていれば・・・・・・」
琴璃「京子さんは死なずにすんだのに・・・・・」
京子が動かなくなった今、2人のは無念の思いしかなかった。
京子「あの〜勝手に殺さないでください。というか、すごく話しづらいのですけど・・・・」
京子の目が開いて残っている片方の手で琴璃の頭をなでる。
音葉「え?」
琴璃「え?」
そこには今までの京子がいた。決して1000年前の京子ではなかった。
京子「あらら〜腕はないし、おなかに薙刀が刺さっていますし・・・・暴走しちゃったみたいですね・・・・」
京子は立ち上がろうとするが、2人が寄りかかっているので体が上がらない。
紺「あれ・・・・生きてます・・・・」
京子「忘れたのですか?私が消えると、紺もきえるのですよ〜」
京子と紺は2人で一人、一対なのだ。どちらが死ぬと片方も死ぬ。
京子「それにしても・・・・お2人とも強くなりましたね・・・」
おなかに刺さっている薙刀が声にあわせて揺れる。なんかゾンビみたいで怖い。
紺「あ、そうか・・・・いや・・・でも何で生きてるのですか?かなり致命傷ですけど・・・」
京子「私の本体はこの尻尾ですよ〜ここを切られていたら絶対に死んでいますね。」
そういって、9本の尻尾を振る。
音葉「よかった〜京子さんが・・・・・・」
琴璃「ごめんなさい〜」
京子「あらあら・・・・2人ともごめんなさい。もう大丈夫だから・・・・」
音葉「ううう・・・・・・・・」
京子「あの・・・すいません・・・そんなにうご・・・・ああっ・い、痛いです・・・」
おなかを刃物が貫通しているのだ。痛くないはずは無い。
紺「今抜きますね〜」
グイ!
京子「ああ!痛い痛い!そっとやってください!」
紺「でも、これ・・・床に刺さってて抜けないですけど・・・・・・」
京子「え!私はこのまま貼り付けですか?」
なぜか、京子はこのときものんきであった。
紺「まあ、我慢してください。」
京子「いや、まって・・・待ってください!」
ググググ・・・・・・
薙刀はびくともしない。
紺「う〜ん・・・・・かたいですね・・・」
京子「ああ、もうちょっと丁寧に!!ああ」
紺「せい!」
思いっきり薙刀を蹴りこむと、薙刀が抜ける。そして京子の魂も抜けている。
京子「うう・・・・ひどいですよ・・・」
紺「え??え?行かないで!もどって!」
すぐに京子の魂は霊気に定着する。
京子「うう、おなかに穴が・・・・」
夏樹「すぐ治せる。」
紺「というか、腕がすごく気持ち悪いから戻してくださいよ・・・」
片方の肩がきれいに無くなり、体の内部が良く見える。
吹っ飛んでいった片方の腕を京子に差し出す。
霊体の体はちぎられても決して死ぬことはない。血液みたいな組織もなく、傷口からは血も出る事無かった。霊体はいわば植物のような体の構造をしていて、たとえ腕が飛んでも足がなくなっても、中心部、つまり霊の心臓及と呼ばれているところを壊すか、霊力をすべて浄化しない限り死ぬ事は無い。
京子「・・・・・どこまで憎まれていたのでしょうか・・・」
腕をとられたのに京子は、ほほほと笑っている。
肩の傷口と腕の傷口を当てると、そこが光りだして元の状態にもどる。
京子「うん・・・・問題ないですね。」
紺「霊力とか大丈夫ですか?」
京子「はい、大丈夫です。音葉さんと琴璃さんのおかげで気持ちの靄(もや)が取れたようにすっきりしています。」
夏樹「紺と同じ霊力になった。」
そう、いままで微妙な霊力しか出ていなかった京子の霊力がいまでは紺と並べるぐらいの霊力を出している。
音葉「本当になのですか?」
琴璃「・・・無理はしないでください・・・・」
音葉と琴璃が一番罪悪感を持っている。たとえ京子が生き返ったとしても、瀕死の重傷を与えたのは間違いないのだ。まだ悪霊ならば非情にもなれるし、倒さなくてはいけない存在なのだ。しかし、京子は違う。霊ではあるが2人のとってはお母さん代わりでもありお姉さんでもあり大切な仲間・・・いや、家族なのだ。だからその体を傷つけるという事は二人にとって恐ろしいものである。
京子「ほらほら、落ち込まないでください。2人ががんばらなければ私はまた悪霊になっていたのですよ。私は音葉さん、琴璃さんを決して恨んだりはしませんよ。」
優しく2人の頭をなでながらゆっくりと喋る。
紺「・・・歩けますか?」
京子「はい、大丈夫です。」
そういうと京子は今まで見なかった満面の笑みを浮かべて笑った。心の中の闇がなくなったことで気持ちが吹っ切れたのだろう。
そう、また、京子も動き出したのだ――――


紺「それで、矢早稲観音に行くのはいつにしますか?」
音葉「私たちもさっきの力の出し方をもうちょっと掴んで見たいですし・・・・」
さっきというのは京子と戦ったときにだした、爆発的な霊力の上昇の事である。
琴璃「あれから練習しているのですが・・・・さっきの様に霊力を放出する事ができませんから・・・・」
ただ単に霊力を挙げることならもうできているのだが、あのときほど強い霊気だ思うように出せないのだ。
紺「何日ぐらいかかりますか?」
音葉「・・・・・・2〜3日ください。あともうちょっとなのは分かっていますから・・・」
京子「私も、今日は無理です・・・・腕の安定と霊力の調節がまだ不安定ですから・・・」
紺「では・・・あと3〜4日後でいいですか・・・冬樹さんが気がかりですが・・・」
夏樹「大丈夫、冬樹はそんなに弱くない。いまも、お話してるけど、まだ完全に取り込めていないから・・・・・たぶん、あと5日ぐらいは大丈夫・・・」
大丈夫、といっても冬樹はもう敵の体内の中に組み込まれているのだ。
あまり大丈夫な雰囲気ではない。
音葉「でも・・・・最近ぱたりと悪霊退治の依頼がなくなりましたよね・・・・・」
琴璃「そうですね・・・・悪霊だけ無いならまだしも除霊の依頼もありませんし・・・」
紺「たぶん・・・鬼海が悪霊や霊を取り込んでいるためですね・・・」
京子「依頼がなくなったということは、ここら辺にいる霊は皆さん取り込まれたのでしょう・・・・」
音葉「これ以上大きくならないためにも・・・・あと4日で食い止めないと・・・」
京子「幸い、お2人の霊力はこの一週間内で5倍まで上がりました・・・・あと少しです」
紺「これから本当に大変ですが、力をあわせてがんばりましょうね。」
5人は手を合わせ決意を誓う。
そう、不気味な闇を浄化するため・・・・・
この世の中を平和にするために・・・・・
彼女たちは立ち上がらなくてはいけない・・・・・
たとえそれが世間に知られなくても・・・・・
彼女たちは「今」という平和を続けるために戦うのだ・・・・・