「鎖の記憶」


・ 第14話:「鎖の記憶」



あたりはいつもより静かだった。
昨日の朝からの雪のせいで、あたり一面は銀色の世界。
その雪が音を吸収して音が響かなくなっているのだ。
50年ぶりだろうか、この地方でこんなに雪が降るのは。
ズボンの裾はもう雪のせいでぐっしょり濡れている。しかし、急いできたせいかあまり冷たくなかった。
・・・・・・・・
コートに雪が積もる。
物心付いたころにはもうあったこのコート、今でも少し大きい。
冬「はぁ・・・・」
息を漏らす。
それは白くにごり、あっという間に消えてしまう。
冬「冷たいなぁ・・・・」
鼻の上に雪がのる。その雪はきれいな形をしている。
音葉「・・・・・・・・いたんだ・・・・・」
結界のなかに数人が入ってきた。
冬「こんばんは。」
今度は頭に何もかぶってはいない。だから顔が見える。
琴璃「やはり・・・・・・冬さんだったのですね。」
あまり驚いた様子を見せない。たぶん、分かっていたのだろう。昨日のコートを着た男の事を・・・
翡翠「・・・・・こんばんは・・・・」
命「・・・・お顔が見れましたね・・・・」
暗闇から現れる。
こんな時でなければ、もっと違った会話ができただろうに。
ソフィ「・・・・あれ?」
もう二人影が見える。
クリス「・・・・・・・ふ〜くん?」
思いがけない人物がたっていたので二人は驚きを隠せない。
冬「こんばんは。」
控えめの挨拶をする。
ソフィ「・・・・・・なんで、冬さんがここに・・・・」
クリス「しかも結界の中に?」
冬「この服の刺繍をみてよ。」
そこにはキリスト教除霊隊のマークの十字架が描かれている。
ソフィ「・・・・・まさか・・・・・・・」
冬「そう、だから今夜はよろしくね。」
淡々としゃべる。
クリス「え・・・でも・・・なんで?」
冬「まあ、それは後で話そうよ。」
そういいながら冬は歩き出す。
ゴボッ・・・ゴボッ・・・
足が雪の中に埋もれていく。
冬「あっ・・・・」
一同「あ・・・・」
ズルッ・・・・・ドテン!
こけた。
冬は雪に足をとられて思いっきり雪の中に飛び込んでしまう。
クリス「ふ〜くん、何やってるの!」
心配そうにクリスが駆け寄る。
冬「うへぇ・・・・つめてぇ・・・・」
雪が服にびっしり付いている。
音葉「くっ・・・・・・」
琴璃「あははははは・・・・・・・」
今まで緊張していたみんなの顔がほぐれる。
命「はははは・・・・」
翡翠「大丈夫ですか?」
冬「もう!シリアスの雰囲気が・・・・・」
クリス「ほら・・・雪を落として・・・」
音葉「ははは・・・やっぱり冬だ・・・・」
琴璃「なんか、安心してしまいました。」
なんか、昨日の冬が飛んでいってしまった。ここにいるのは昼間に見ている冬だ。決して深夜に会ったフユではない。
冬「あ、クリスごめん・・・・・・」
クリス「でも、今までなんで黙っていたの?同業者の私たちぐらいには教えてくれてもよかったんじゃない?」
冬「いや、別に隠していたわけじゃないんだけどね。」
ソフィ「じゃあ、何故・・・・・」
冬「ぼくがこの力をつけたのが、最近だったからいままで分からなかったんだよ。」
音葉「でも・・・・・出てこなくても・・・」
そう、冬には戦う理由がない。
音葉やクリスは一家代々こうした事を専門とする家庭なので、霊と戦う理由はある。また、この活動は国からもまかされているので、ボランティアというわけでもない。
しかし、冬はごく普通の家庭で、ごく普通の生活をしている。家柄とか先祖がと言う理由もなければ、霊に親を殺されたとか、何かをされたと言う理由もない。
 霊とは今まで無関係の生活をしてきた冬がここにいる理由が見つからないのだ。
琴璃「そうですよ。冬さんは何にも関係ないですよ・・・・」
冬「あれ、昨日の男が言った台詞わすれたの?」
音葉「台詞?」
冬「あの男は僕を倒しにここまで来た。だから僕も戦う。」
琴璃「でも、貴方に一方的に思っているだけですよ。」
冬「ん・・・・・じゃあ、あの男ができあがるまでを話そうかな。」
音葉「出来上がる?」
冬「あの男はもともと鬼海の部下だった男なんだよ。鬼海はほかの悪霊を使役して自分の力を強めるんだ。そして鬼海は自分の手下になった霊に霊力を与えてもっと力を強くするんだよ。完全な自分の強さを求めてね。」
冬「しかし、霊力を与えると言うことは、手下の霊にも知能が付くと言うことになるんだよ。鬼海の手下にはもともと知能の高い霊もいるだろうし、それにもっと知能がつけば自分も一人で強くなりたいと言うものが現れるものも出てくる。」
琴璃「それが・・・・あの男ですか?」
冬「そういうこと、普通なら一度自分の手下にした霊が反抗した場合は自分の体に取り込むのが普通なんだけど、たまに逃げ出せるやつもいるんだよ。」
ソフィ「待ってください・・・鬼海と男の関係は分かりましたが・・・冬さんとの関係が分かりませんよ・・・」
冬「あ、そうか・・・ごめん。えと、何で鬼海っていうか知ってる?」
クリス「詳しくは・・・・・」
冬「鬼海・・・鬼海が始めて生まれたときは「海」と言う名前だったんだよ。しかも漢字では妖怪の「怪」の字を使っていたんだよ。恐ろしい化け物、として恐れられていた。しかし、その「怪」は滅んだ。ある一人の除霊者のおかげでね。」
冬「その除霊者は自分の体内に「怪」を閉じ込めて自分ごと死んでいったんだよ。その除霊者の名前が「月」と言う名前だったんだ。そのため、「月」に対するものとして「怪」から「海」になり、「鬼」のような「海(うみ)」ということで「鬼海」となったんだよ。」
冬「そうして、その鬼海を封印した「月」は死ぬ間際にこういったそうだ「貴様がまた復活してもわれも復活して永遠にお前を封印してやる!」って・・・それにあやかって「月」の死後に彼はこう言われたんだ・・・・」
冬は次の言葉をしゃべる前に、一息ついた。
冬「終わらない月、永遠の月、永月と―。」
音葉「そうだったの・・・・・・」
琴璃「先祖代々の宿命だったのですね・・・・・・」
冬「まあ・・・でも、今の永月家は関係ないよ。あの人は月って言う人だから・・・」
ソフィ「じゃあ、なんで?」
冬「まあ、永月と言う名前自体が珍しいけど、300年に一度僕という人格は転生するんだよ。鬼海を倒すために。」
翡翠「え?じゃあ、貴方は300年前のアノ英雄なのですか?」
冬「まあ、記憶の中ではそうらしいけど・・・テレビを見て覚えたような間接的な記憶じゃないから僕も実感できないけどね。」
記憶のあっても実際に起きたことなのかが分からないのだ。もしかしたら過去の話や出来事がごちゃごちゃになってできた嘘なのかもしれない。そういうような考えがあるのだ。
命「あの・・・・手をつないでもらってもいいですか?」
冬「え?・・・・僕そんな人じゃないよ。」
命「ですよね・・・・・・・」
なんだか、落ち込みようが激しい。
まるで、冬が有名人で、握手を拒否られたような感じだった。
冬「・・・・・・まあ、いいか。」
なんか釈然としない。
記憶にあるが実際にやったと言う実感がないのだ。
冬「・・・今日はよろしくね。」
命「はい!」
そんなはきはきした挨拶を聞くと冬まで元気になってきた。
クリス「む・・・・・」
クリスがにらみつける。
冬「え?どうしたの?」
クリス「ん〜ちょっとね〜」
ぷ〜と膨れあった頬はリスのようになっている。
男「・・・・余裕だな・・・・神の使者よ。」
突然後ろのほうから声がした。
振り返ると昨日の男が立っていた。
音葉「な・・・・・」
みんなその姿を見て言葉を失う。
それもそのはず、その男は一人だけではなくて3人いた。しかも、その周りには無数の獣の形をした霊が40体ぐらいはいた。
冬「おやおや・・・仲間を連れてきたのか・・・・」
さっきまでの穏やかの冬とは一変して鋭い眼光を見せ付ける。
男「ああ、これが私の姿だ。」
琴璃「・・・あんなに霊を使役しているなんで・・・・」
翡翠「数が・・・・多すぎます・・・・」
獣と言っても体長は1〜2メートルもゆうにある大型の獣だ。
命「・・・・・・」
命は冬の手を掴んだままだった。
冬「大丈夫・・・・」
やさしく握り締めてそっと解く。
命「でも・・・・・・」
冬はウインクを一つしてまたしゃべり出す。
冬「このまま、何もしないまま負けるかい?」
命「・・・・・・」
冬はクリップホンを装着して獣の群れに突っ込んでいく。
ザシュ!
ザシュ!
足を。
胴体を。
剣には真っ赤な血が付いていて赤く光っている。
ザシュ!
ザシュ!
まるで踊っているように冬が舞っている。しかし、剣の降るスピードはもの凄く早く目で追うのが限界だった。
音葉「・・・・すごい・・・・・」
クリス「ふ〜くん・・・・・・」
瞬く間に死骸の山ができる。
冬「これでも、戦えない?」
冬はあんなに動いた割には全然息切れをしていなかった。
命「・・・・・・うん、戦える。」
戦える気がした。
あんな強い人が仲間にいる。一瞬で40体の獣を倒してしまった。
男「ふ・・・・これも計算内だよ。」
シュ・・・・・
3人の男の体内から獣が生まれる。
男「私は一にして十、十にして一なのだ。一部だけを倒しても何にもならんぞ?」
冬「う・・・厄介な・・・・・」
音葉「・・・・大丈夫。」
琴璃「出てきたなら、倒すだけです!」
今度は全員が飛び出していった。
音葉は刀を持ってクリスは手投げナイフ、琴璃はクロスボウ、ソフィは大型銃、命は式神をつかい、翡翠は大きな銃・・・ロングライフルを持っている。
音葉「翡翠さん!それなんですか!?」
見たことのない武器が出てきたので驚いている。
翡翠「これは、対大型悪霊大型銃です。霊気を貯めて打つことにより方範囲に攻撃できます。」
長さ1メートルで高さは30センチぐらいだろうか。銃というよりグレネードランチャーに近い。
琴璃「今は打てないのですか?」
翡翠「あと10秒ください。」
だんだん銃が光ってきた。
カチャ・・・・・
機械の動く音がする。翡翠が照準を合わせる。
ガコン!
トリガーを引いて大きなわっか状の鉄のリングが出てきた。
翡翠「冬さん!どいてください!」
ゴゴゴゴゴゴ!
地響きがしてあたりがゆれ始める。
冬「ん。」
翡翠「Mars de la mort!!!」【死の行進曲】
ドウゥゥゥゥン!
その軌道は真っ直ぐ真ん中にいる男目掛けて飛んでいき、その途中にいる獣たちは粉々に粉砕されていく。
ドシャ!
クシャ!
その威力はすさまじく、かすった者でさえも浄化していく。
ドゥゥゥゥゥン!
そして軌道は男の頭を打ち抜いた。
音葉「やった・・・・」
琴璃「すごい・・・・・・・」
これで勝った。皆がそう思った。
男「これで勝ったつもりか?・・・・我はまだ滅んではいないぞ!」
シュルシュルと男の頭が戻っていく。
冬「・・・・・・おまえ・・・・」
男「ああ、私は一で十といっただろう。この下僕もこの分身も我が体の一つなのだよ。」
音葉「うそ・・・・・」
つまり、ここにいる全部の獣と男を倒さない限り復活するのだ。しかも、普通に倒すだけでは駄目だ、同じタイミングで倒さなくてはいけない。
冬「おまえ・・・・雑種霊か!」
雑種霊というのは複数の霊が混ざって出来た霊の事である。普通の霊は一つに一つの魂しかないが、普通の生き物とは違い霊と言う者はほかの霊と合成しやすいのだ。だから、一つの固体に複数の魂を持った霊も現れるのだ。それが雑種霊というのだ。
男「いかにも・・・・わたしはGrou【集団】といわれているがね。」
冬「グループのグルーか・・・・みんな、まだ大丈夫かい?」
音葉「うん、まだいけるよ!」
クリス「ふ〜くんが頑張っているのに、私だって頑張るよ!」
命「大丈夫です!」
グルー「しかし、この程度の僕では話にならんな・・・・・良かろう、わが本体のみで相手をしてやる。」
そういうと、グルーは自分の周りにいる獣たちを吸収していく。
冬「今まで強がりしていたのかよ・・・・」
グルー「よし、第二幕と行こうか・・・・」
残ったのは男3体のみ。
数は少なくなったが力を凝縮している分かなり強くなっている。
冬「ああ、これで閉幕だ!」
キィィィィィィン!!!
一瞬にしてグルーとの間合いを縮めて剣を振り落とす。グルーも驚くべき反応でそれを受け止める。
音葉「私たちも行くよ!」
ダダダダ
冬の両側に左に音葉と琴璃、右にクリスとソフィとそれぞれのグルーと戦う。
音葉「く・・・・・霊化防壁!」
琴璃「攻撃が届かない・・・・です。」
グルーは自分の周りを霊気でバリアを張っている。そのため、ほとんどの攻撃がグルーに当たらない。
グルー「小ざかしい!」
ドゥゥゥゥゥゥ!!
霊気の波動が音葉と琴璃を襲う。
音葉「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
琴璃「ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
音葉と琴璃の体は中を舞い、地面に叩きつけられる。
ドォォォン!
バリバリバリ!!!
体の当たった床のタイルが粉々に壊れる。
音葉「ぐ・・・・・・ふ・・・・」
琴璃「・・・・・・・・・・がはっ!」
口から大量に血を吐く。内臓を傷つけたようだ。
クリス「音葉!」
ソフィ「琴璃さん!!」
2人の安否を見るために手が止まる。
冬「馬鹿!!来てるぞ!!」
クリス「え・・・・?」
ドォォォォォォォン!
同じように叩きつけられる。
命「みなさん!・・・・」
翡翠「・・・・手当てします!」
冬「く・・・・・・力が違いすぎるか・・・・・」
ザシュ!
グルーのツメが冬の腕を貫く。
冬「ぐ・・・・・・・・・・」
あまりの痛さに歯を食いしばる。
冬「腕ならくれてやる!」
ブチッ!!!
ツメを強引に抜き出して剣で滅多切りにする。
ザシュ!ザシュ!ザシュ!
冬「うおおおおおおおお!」
ピチャ・・・・・
血が音葉の顔につく。
ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!
グルー「ふふふ・・・・・我一体だけ倒しても私を倒したことにはならんぞ・・・・・」
そう、今冬はやっていることは意味の無い事だ。
冬「お前だって、その命は永遠ではないだろう!!!」
ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!
片腕はもう思うように動いていない。
しかし、攻撃をやめない。動かない腕には血が滴りコートを赤く染めている。
クリス「もうやめて!ふ〜くんが死んじゃうよ!!」
クリスは体を動かそうとしているが、あばら骨に日々が入ったせいで立てない。
翡翠「まってください、もう少しで治しますので・・・」
動こうとするクリスを止める。
音葉「く・・・・行くよ!」
治癒したばかりなのに音葉はもう一人のグルーに突っ込む。
冬「今度は油断するなよ。」
音葉「冬に言われたく無かったよ!」
ズキッ!!
音葉「ぐ・・・・」
お腹が少し痛む。
どうやら、まだ完全に治していなかったようだ。でも、音葉は攻撃をやめない。冬があんなに頑張っているのに自分だけ休めない!そう言い聞かせて体に鞭をふる。
ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!
音葉「やぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
切っても切ってもまた再生していく。この霊に本当に最後はあるのだろうか。
ドスッ!
冬「ぐ・・・・・・」
また、ツメが腕を貫く。
ボトッ!!
片腕が落ちる。そしてロングコートの肩の部分からは血が大量に噴出している。
冬「わぁぁぁぁぁっぁぁ・・・・あぐぐぐぐぐ・・・・・・」
あまりの痛さに言葉にならない声がでる。
クリス「ふ〜くん!!!」
クリスも駆け出して冬を抱きしめる。
冬「大丈夫・・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・ぐぐ・・・」
ぽんぽんとクリスの頭を叩く。その手にはべっとりと血がついている。
クリス「死んじゃうよ!もうやめて・・・・」
冬の血がクリスの顔にかかり真っ赤に染めている。
冬「ばか・・・・・だれがこいつらを倒すんだよ・・・・・」
冬はクリスを振りほどいて剣を持ってまたグルーに突っ込んでいく。
クリス「ソフィ・・・・私ちょっとキレちゃった・・・・・」
ソフィ「うん、分かった。」
2人は残りのグルーに拳を加える。
グルー「なに!武器も持っていないのに攻撃が当たるだと!!」
クリス「あなたは許さない!!!」
涙顔になっている。
ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!
ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!
音葉「く・・・・・どうやったら倒れるのよ!!」
冬「・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
全員ノンストップで動いているのだ、少し疲れが出てきている。
冬「やば・・・・頭が・・・・・」
冬は貧血を起こしていた。無理も無かった。冬の周りには大量に血がついた雪がある。
グルー「何度やっても無駄だ!!」
ドォォォォォォォン!
皆吹き飛ばされてしまう。
音葉「かはっ!・・・・・」
琴璃「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・・・」
クリス「ぐぅぅぅうぅ・・・・・・・・」
ソフィ「げほっ・・・・・・・がぁ・・・・・・」
胃液と一緒に赤い血が出ている。
翡翠「このぉぉぉぉっぉぉぉ!」
援護に回っていた翡翠があの銃を持ってグルーに近づく。
翡翠「これならどうです!!!」
シュウ!シュウ!・・・・・
翡翠「リミッター解除!出力300%!!すべてを焼ききれ!!!」
翡翠「Mars de la mort!!!」
ドゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
その軌道は2体のグルーを巻き込んで粉砕していく。
グルー「なに!・・・・・・・・ぐ・・・・・・・・」
翡翠「はぁ・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・」
バタッ!
翡翠がその場で倒れる。
グルー「ふははははは・・・・・私は勝ったのだ・・・・・もう、止められる者はいない!」
命「翡翠さん!!」
翡翠「・・・・ごめん・・・・私・・・・役立たずだったみたいだね・・・・・」
意識が朦朧としている。
命「そんなこと無い!翡翠さんは頑張ったよ!!」
グルー「そう、お前たちは無力だ。われを倒す事さえ出来ないのだ!!」
グルーの低い声が木霊する。
もう、勝てない・・・・・・・・
体が動かない。
痛みも無い。
感覚が無い。
自分の体じゃないみたいだ。
ここで終わるのかな。
誰もがそう思っていた。
誰もがあきらめていた。もう勝てないと・・・・・・

ドクン・・・・・

ドクン・・・・・

冬「お前が倒せない?グルー!自分を見てみろ!!」
冬が肩を押さえて立ち上がる。
グルー「なんだと?」
冬「お前の僕はどこに行ったのだ?見えないけどな!」
グルー「なに!何故復活しない!ありえぬ!私が消えるなどありえぬ!」
動揺を隠せない。
しかし、現に2体のグルーは復活していないのだ。
グルー「なぜだ!何故復活しない!」
冬「あれは浄化ではなく消滅させたのさ。しかも存在全体を・・・・・」
一発目は頭しか当たっていなかったので再生が出来たのだ。
グル「しかし、そんな手負いの者たちだけでなにができるのだ?」
音葉「貴方いったいだけならば・・・・・倒せるわよ!」
クリス「刻むのではなく、消滅させればいいのよね!」
皆立ち上がる。
しかし、皆手負いの怪我を持っている。万全な状態とはいえない。
クリス「ソフィ、対霊弾から霊消弾に変えるよ。」
対霊弾というのは、霊に対し攻撃を与える玉である。それに対し霊消弾は霊気そのものを消してしまう力がある。そらなら、常に霊消弾を使えばいいのだが、これは当たった範囲意外はほとんど効果ないので効率が悪いために普段は使わないのだ。たとえ、霊の心臓を打ち抜いても霊消弾だと死ぬ事は無い。
音葉「こっちも変更するよ!」
琴璃「了解!」
ガチャ!
冬「いけぇぇぇぇ!」
ドドドドドドドドド!
一斉に弾や矢が飛んでいく。
・・・・・・・・
グルー「ふはははは・・・・・そんな弾に当たるほど遅くは無い!!」
すべて回避されていた。
冬「・・・・もう一本ぐらいはいいかな・・・・・」
覚悟を決めたように冬が突っ込む。
グルー「あの大砲が使えない限りお前たちに勝つすでは残っていないぞ!!」
しかし、冬は突っ込んでいく。
翡翠は衰弱していてあの銃を撃てる状況にいない。
音葉やクリスの攻撃はことごとくかわされてしまう。
勝つすではないように見える。
冬「おらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
冬はグルーの頭をつかんだ。そしてその手が爆発する。
ドォォォォォン!
グルーの顔はきれいに吹き飛んで胴体だけになる。
冬「今だ !全部撃ち込め!!!」
間髪いれずに冬が指示をする。呆気にとられていた4人はまた攻撃を加える。
ドドドドドドドドド!
一斉に弾や矢が飛んでいく。
クリス「替え玉もいけぇぇぇぇ!!!!」
ガシャン!
バラララララララ・・・・・・
ハンドガンの弾が無くなると今度はサブマシンガンをぶっ放す。
ドス!ドス!ドス!ドス!
グールが蜂の巣になっていく。
音葉「こっちもおまけよ!!!」
クロスボウを三連射にしてそれを二丁構える。
ドス!ドス!ドス!ドス!
もう、何を撃っているのか分からない。
グール「うおおおおおお・・・・・・・・・・・負ける!このわ・・・・・・」
声が途中で途切れても止めずに撃ち尽す。
・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
音葉「終わったの・・・・・?」
クリス「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・・はぁ・・・・・」
琴璃「敵の霊力確認されません・・・・敵は消滅しました・・・」
ソフィ「・・・・・終わりましたね・・・・」
皆の安堵も束の間、命が現実に皆を叩き込む。
命「冬さん!?」
冬は両手がなくなっていた。右は肩から、左は腕から下が無い。
クリス「わ・・・わわ・・・・ふ〜くん・・・・・」
恐る恐る皆が近寄る。
音葉「冬・・・・・・・・」
命「・・・・・・私の力では・・・・再生は出来ません・・・・・・・」
冬「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・・やっぱり痛いなぁ・・・・」
実はあの爆発は冬の能力ではなくて、爆発物をもってグールの顔を持ってそれで爆発させたのだ。グールの顔はもちろん飛ぶが、冬の腕も当然飛んでしまう。
ボタッ!ボタッ!!
両方の腕のすそから血が垂れる。それは一筋だけではなくて固まりになって落ちている。
冬「おがっ!・・・・・早くしないと・・・・・」
口からは血も出ている。爆発のときに腕だけではなくてお腹もダメージを受けたようだ。
冬「ごめん・・・気持ち悪いと思うけど・・・僕の腕を持ってきて・・・・・・そして、肩にあるポケットからタバコみたいな棒を出して口に含ませて・・・・」
クリス「え・・・わかった!」
クリスが腕を持ってくる。いかにも大事そうに・・・・
音葉「タバコみたいな物・・・・ってこれ?」
しろいプラスチックの棒を取り出す。
冬「うん・・・・そのキャップをとって・・・僕の口に・・・・・」
痛みをこらえて喋っているので途切れ途切れに喋っている。
音葉「・・・・はい・・・・・これで、大丈夫なの?」
どう見ても治療をしているようには見えない。
ソフィ「病院に・・・・・行ったほうがいいのではないですか?」
その間にも腕からは血が流れ続けている。
冬「ん!・・・・だい・・・大丈夫だよ・・・・・・」
冬は棒を加えたまま大きく息を吸った。
冬「クリスその腕を傷口に・・・・・・・・」
クリス「う、うん・・・・・」
クリスの手が震えている。冬はそれを押さえるように肩をクリスにかける。
冬「大丈夫・・・・・・・」
クリス「ふ〜くん・・・・・・」
そして、大きく吸った息をふーと傷口にかける。すると、クリスの持っていた腕の重みが少し軽くなる。
冬「う・・・・この腕つめたい・・・・・・」
クリスの持っている腕ががくがく震え始める。
音葉「これは・・・・・・」
冬「霊力を使って傷の再合成をしたんだよ。まあ、細胞を活性化させたんだよ。この筒の中に濃い濃度の霊気が入っているんだ。」
ソフィ「でも・・・・完全に切断していましたが・・・・・・」
冬「これも完全じゃないんだ。僕寿命を使うことにって再定着させたんだ・・・たぶん、これで1年ぐらいは寿命はなくなったよ・・・・・・」
クリス「え・・・・・・・」
冬「さて・・・・今度はこっちの腕か・・・・・・」
今度は切られたのではない、粉々に吹き飛んだのだ。
冬「・・・・・・・50年は縮むかな・・・・・・」
無いものを生やすのだそのくらいのリスクは伴う。
クリス「いや・・・・・そんな・・・・・」
冬「でも・・・・・腕を直さないと・・・・死んじゃうよ・・・・・・」
音葉「でも・・・・・50年は・・・・・・・・」
50年。今の平均寿命が80ぐらいとしても半分の人生を失う事になる。それはかなり残酷だ。
ソフィ「・・・・・・・・・あの!」
突然にソフィが問いかける。
ソフィ「私の霊力を使ったら・・・・その寿命・・・長くなりませんか?」
冬「でも・・・それ以上霊力使うと・・・・・翡翠さんの様になってしまうよ・・・・」
翡翠は霊力の使いすぎで衰弱しているのだ。霊力は精神力にもなるので、それば無くなる事は生命の維持が出来なくなるぐらい危険な事だ。
翡翠「私は・・・・・大丈夫です・・・・・何も役に立たないより・・・・いいと思います・・・・」
まだ、息が切れている。
音葉「私も・・・・霊力あげる・・・・・だから、長生きしてよ・・・・・」
一筋の涙が頬を伝う。
琴璃「そうですよ・・・・今生きながらえても・・・すぐ死んでしまう命ではさびしいですよ・・・・」
冬「・・・・・・・・・・」
冬は黙ってしまう。
その気持ちはうれしい。でも、自分の為にみんなを犠牲にしたくないのだ。
命「誰も一人で戦っているのではないです。皆、仲間と一緒に戦っています。だから、冬さんの戦いも私たちと一緒に戦いましょう。」
人間は一人では何も出来ない。
そう、仲間がいて何かを成し遂げられるのだ。
それが表舞台に出なくても、影の存在でも。
直接はかかわっていないが、皆ともに支えあっているのだ。
ボタッ!ボタッ!
冬はまだ出血している腕を見る。
このままだと確実に死ぬ。
早く直さなければいけない。
冬「・・・・・・・・・ごめん、皆の力・・・・ください。」
そういって俯いてしまった。
音葉「うん。わかったから・・・・わかったから・・・・」
音葉がそれを悟ったのか冬の頭を胸に押し付けて顔を見せないようにした。
クリス「じゃあ、霊力送るね。」
皆が冬の腕に手のひらを乗せる。
パァと光りその光が手のひらの形になる。
ソフィ「これを吹くのかな?」
そういって棒を口にくわえて、息を吸い込む。
ソフィ「ふ〜」
息を吹きかけるとその光は実体を帯びた者になる。
冬「ん・・・くっ・・・・・」
痛みが走る。
冬「・・・・ありがとう・・・・もういいよ・・・・」
琴璃「そうですか。もう動きますか?」
冬「ん・・・・・」
なんか腕が治ったのに冬には元気が無い。
音葉「もう、冬がそんなんだと安心できる物も安心できないでしょ?」
音葉は胸に冷たい感触を感じながら冬に語りかける。
冬「ん・・・・・でも・・・止まらないよ・・・・元気なってうれしいのに・・・・・」
クリス「・・・・・・・私たちはちょっと離れようか。」
音葉「ん・・・・そうだね。」
皆が立とうとする。
冬「ごめん・・・・・音葉・・・・もうちょっと居てくれないかな・・・・・・」
音葉「でも・・・・・クリスが・・・・・・・・」
クリス「ん・・・私はいいよ・・・・その代わり、ふ〜くん・・私にも後・・お願いね。」
冬「ん・・・わかった。」
ザツ・・・・ザッ・・・・
雪を掻き分けて音葉意外が離れていく。
音葉「・・・・・もう行ったよ。」
冬「うっ・・・・・・・」
突然、冬にある感情がこみ上げてくる。
冬「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ」
音葉に抱きついて泣き始めた。
今になって感情が吹き返したのだ。
怖い。
辛い。
苦しい。
辛い。
・・・・・・
一気に感情がこみ上げる。
音葉「・・・・・・・・もう、落ち着いて・・・・・」
音葉がそっと手を腰に回してぽんぽんと二回たたいた。
冬「グスッ・・・・・・・ああ・・・・・・ヒック・・・・・・・・」
しゃっくりと鼻水が出ても泣くのをやめなかった。いや、やめたくてもやめれなかった。こんなに優しさを感じてしまったのだから・・・・
音葉「もう・・・・・服が汚れちゃうよ・・・・・」
冬「・・・・・・・ごめん・・・・・・・・・・」
音葉「でも・・・・・クリスの方が良かったんじゃ・・・・・・・」
冬「クリスにはこんな顔見せれない・・・・・・・こんな弱い自分なんか・・・・」
音葉「・・・・・・・・・」

ドクン―

ドクン―

ドクン―

体が熱い。


チュッ・・・・・

冬「!!!」
音葉「んん・・・・」
思いかけず音葉は冬にキスをしていた。
自分でも分からない。なんで冬にキスなんかしたのか・・・・・
でも、体が止まらない。
体が熱い。
こうしていると落ち着く・・・・・・
2人は長い間唇を重ねあっていた。



冬「・・・・・・・・」
音葉「・・・・・・・・・・」
冬「・・・・・良かったの?僕なんかに・・・・・・」
いまでも信じれない。音葉がこんなことをするなんて・・・・・・
音葉「・・・・・・んん・・・・・・・・」
なんで、私はこの人にキスをしたのだろう・・・・・
決して好きではないはず・・・・・
でも、嫌いではない。
むしろ、気になっているのかもしれない。
冬の甘い息が漏れている。
さっきまであんな事をしてたので当然だ。
冬「・・・・・・ありがとな。」
音葉「え・・・・・」
冬「元気・・・・ついたよ。」
ガポッ!
冬「さて、皆のところに行くぞ!!」
音葉「う・・・・うん!」
ドサッ!
音葉が冬の腕にしがみつく。
冬「ばか!こんなの見られたら・・・・・」
音葉「キスの代金は高いんだからねっ!」
冬「あれは、一方的に・・・・・・・」
音葉「早く、いくよ!!」
2人は駆け出していた。