序章

 

はぁ・・・・はぁ・・・・・

オレの腕には見知らぬ女性がいた。

この女性とは認識もない。

ましては話したこともない。

息切れが激しい。

はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・

腕の幻痛が激しい・・・

ズキン・・・・・・ズキン・・・・・・・・・

がぁっ!!!

左のない腕が痛み始める。

こんなに痛いのは久しぶりだ。

本来ない痛み。

ズキン・・・・ズキン・・・・ズキン・・・・・

あがっ・・・・・

腕だけならまだしも、なぜか全身にわたって響いている。

心臓が鼓動するように、全身に激痛が走る。

周りが夜ということも分からなかった。

肌にさわる空気が冷たいことでかすかに外が夜ということを理解した。

僕は・・・・何をしているんだ・・・・・?

ズキン・・・・ズキン・・・・ズキン・・・・・

ズキン・・・・ズキン・・・・ズキン・・・・・

ズキン・・・・ズキン・・・・ズキン・・・・・

ズキン・・・・ズキン・・・・ズキン・・・・・

ナニモカンガエラレナイ

セカイガ・・・・イタイ・・・・・・

 

ズキン・・・・ズキン・・・・ズキン・・・・・

ズキン・・・・ズキン・・・・ズキン・・・・・

ズキン・・・・ズキン・・・・ズキン・・・・・

ズキン・・・・ズキン・・・・ズキン・・・・・

 

この女性を見ているだけで痛みが増す。

 

ズキン・・・・・

 

最後に一回だけ痛みが走り、嘘のように痛みが引いていった。

はぁ・・・・・はぁ・・・・・

動悸が激しい。

口から酸っぱい粘ついた液体が吐き出される。

ゴハッ・・・・

ネバネバした液体を服の袖で拭い、呼吸を整える。

「・・・・・ん?血の臭い?」

落ち着いて女性を見ると、腹部に血がにじんでいることに気づいた。

「え・・・・なにこれ・・・・・?」

僕はびっくりして女性を引き離す。引き離した手にもべったりと血がついていることに気づく。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

え?何で血が?

そんな、僕が?

なんで?

どうして?

理由が見当たらない。

なんで、この人を殺さなきゃいけないのか?

そして、人を殺す原因が見当たらない。

僕はごく普通の大学生だった。いや、今のそうだ。

いつも変わらない生活。

いつも変わらない食事。

いつも変わらない学校。

いつも変わらない空。

いつも変わらない日々。

いつも変わらない家。

いつもかわらない・・・・

 

イツモカワラナイ・・・・・・・・

イツモ・・・・?

 

なにか変わってないのか?

なにか普通なのか?

 

わからない。

ワカラナイ・・・・

 

何もかもが分からない。

殺人?

そんな、僕が殺人なんて、そんな殺すような恨みを持っているわけでもないしむしゃくしゃしたこともないし未来に絶望さえもしてなくかといって、未来に希望があるわけでもなくつまらなくすごしていたのは確かだけどそんな人を殺すような感情いままで一度もおきたことなかったしそれを実行に移すなんて夢にも思っていなかった・・・

 

サァァァ・・・・・

不意に女性の姿が消える。

いや、消えるという言い方はおかしいだろうか、灰になったといったほうが正しいのだろうか。

「え・・・なんで・・・」

自分が人を殺すことが夢物語なのにその殺した人が灰になるなんて。

 

サァァァ・・・・・

 

女性は自分の腕から崩れ落ちて灰になって消えてしまった。

「何なんだよこれ・・・・」

今起きていることは自分の範疇を超えている。

取りあえず落ち着くために息を吸い、吐き出す。

気がついたら死んでいる女性を抱えて僕は立っていた。そしてその女性は今灰になって消えてしまった。

・・・・・・吸血鬼か?

たしか、そんな事件を聞いたような気がする。

今日の朝の出来事を思い出し始めた。

朝のニュース番組で・・・・

「連続吸血殺人事件」

というのをやっていたなぁ。

なんでも、隣町の事件で被害者はいずれも若い女性で著しく血が抜かれていたそうだ。警察も1000人体制で調べているそうだが手がかりがまったくないのだという。

・・・・・・・これか?

いや、あの女性は血なんか吸われてなかったし、ましてや吸血鬼なんかいるはずないじゃないか。

童話とかで読んだ事あるけど吸血鬼とは太陽、にんにく、十字架に弱くて死ぬと灰になるといわれている架空のものじゃないか。

 

「まさか、な・・・・・・」

 

一人で愚痴ってみても結論は出ない。

現に女性を殺し、その女性は灰になったのは確かなのだ。

取りあえず家に戻ろう。

今の頭じゃ何を考えるか分からない。自分の部屋に篭っていよう。

そう思いを振り切って立ち上がる。

 

ズキン・・・・・・

 

そんな、また幻痛が・・・・

一度は収まっていた幻痛がまた振り替えしてきたのだ。

 

ああああああっ!!!

 

体がちぎれそうだ。

 

呼吸が熱い。

 

息が出来ない。

 

意識・・・・が・・・・た・・・・もて・・・・・・

 

 

 

 

 

まだいたのか死人め!

今日は2人もいるとは・・・ついてないな。

死人は死人らしく死んでいればいんだよ!

オレの前には死人・・・吸血鬼がいる。

奴を殺すにはまだ早い。何せここは大通りで人が多すぎる。

やるなら食事をする時だ。

奴らは人目につかないところで食事を行う。例えば裏路地とか建物の間とか

そう、奴らがこの吸血鬼事件の犯人であり、主犯の下部なのだ。

隣町でやっていればオレも手を出さなかったのに、こんなところに来る死人が悪い。

前の女性が裏路地に消えた。

どうやらここで「食事」をするようだ。

まだ幻腕はでるか?

なくなった左腕を見る。

するとうっすらだが腕の輪郭にあわせて光っているのが見える。

それは、光が腕の形になっているようだ。

今日はもう一人も狩っているからな、これが限界か。

光の腕をさすり、女性が入っていた裏路地に侵入する。

 

コツコツコツ

 

渇いたアスファルトの上にスニーカーの音が響く。

もう一人のオレはあの死人を殺してビビッていたが・・・

 

コツコツコツ

 

ふん、あんなの人間じゃない。ただの死人だ。

怖がることなど何もない。

可愛そう?

どこが?

話し合えば・・・・

無理だ。

奴らに人間のときの事の記憶なんてあるわけがない。

いまこいつらにあるのは、

殺人衝動。

吸血衝動。

この二つだけだ。

 

コツコツ

 

夜ということもありその足音は良く響いている。

 

コツコツコツ

 

予想通り、女性は男性の首に噛み付いて「食事」していた。

ジュルリ。

血をすう音が微かに聞こえる。

ジュルリ

グジュ

ジュルリ

嫌な音だ。

女性は男の血をこぼしながら無心に吸っている。

辺りは血の匂いで充満していて鼻が曲がりそうだ。

 

ジュルリ

 

まるで大ジョッキにある飲み物を飲むように

 

ジュルリ

 

勢いよく血をすっていく。

欲が叶って普通なら寒気の渦に飲まれている頃だろうが、こいつらにはそんな感情などない。殺人衝動、吸血衝動すべてが必然であり生きることに必要なことなのだ。

 

ジュルリ

 

まだ男の心臓は動いているのだろうか?

男の首からは大量の血があふれ出している。

手を真っ赤に染めて血をすう女性。

月明かりに照らされて幻想的に見えるその世界も、ただの人殺しをしているだけなのだ。

男と女のシルエットはまるで抱き合ってキスをしているようにも見える。

しかしそんなシルエットをよそに、吸血行動は進んでいる。

男の肌から血管が見え始めてきた。

大体2分の1をすったところだろうか?

 

コツ

 

オレは足を止めて女性から少し離れたところに立つ。

距離的に10mぐらいか、でも、今のオレにはそんな距離は関係ない。

さすがの女性もその音に気づいて吸血行動をやめてこちらを向く。

 

生気のない目。

人を刺すのに適した形になった爪。

血が通っていないと分かってしまうような白い肌。

 

何もかもが「生きている」人間とは思えない。

女性は何も言わずにこちらに迫ってくる。

どうやら、オレのことを「食料」と思ったらしい。

この死人め!オレを食うなんて図が高い。

オレは少林寺拳法みたいな構えをして女性が来るのは静かに待つ。

オレには武術の心得なんかない。

しかし、今オレの筋肉はトップアスリートを超える力がついている。なあに、10メートルも跳躍するのはわけもないさ。

 

ズキン・・・・・

 

まだ弱い。

 

ズキン!

 

これでは倒せない。

 

ズキンズキン!!

 

このぐらいだ。このぐらいならこいつを倒すことが出来る。

幻痛の強さを確かめて再度握りこぶしを作る。

 

女性とオレの間合いは一歩外だろうか。

どちらが迂闊にも出ない限り攻撃を加えることは出来ない。

夜の静寂が少しの間続く。

女性もオレもピクリとも動かない。

いまは殺気の牽制し合っているのだ。精神亭に不利の状況を作ることによって相手のふいの一手を出すことが出来る。

こちらが一歩上手のようだ。

 

ドスッ!!

 

女性と重なるとき、オレは胸に一撃を入れた。

すると女性は胸を押さえて苦しみ始めて口から大量の血を吐き出す。

 

「がぁぁぁぁあっぁぁぁぁぁぁぁ」

 

悶え、苦しんでいる。

女性はもう死ぬ。

奴の死期を殴ったから。

地球上、宇宙、この世界にある全てのものは死期というものがある。例えコンクリートでも石でも、水でももちろん人間にも。そして、その死期には死にやすい時期と死ににくい時期というものが存在するのだ。車を長い年月使っていて壊れるのと一緒だ。それは老朽化という死期が来たからである。オレが見えるのはそんなものではない。もっと確実にそして正確な死期。

生気と死期は波の様になっていて交互に変わりながらやってくるのだ。それは健康な人間でも丈夫なコンクリートでもそうだ。例え健康な状態の人間でもオレの見える死期にこの幻腕によるショックを与えるだけで死んでしまうのだ。殴りだろうがでこピンだろうか関係ない。ショックさえあれば良いのだ。

逆に生気の状態で人をころすことは出来ない。例え車に引かれようが、高層ビルの屋上から落ちようが大怪我をしても死ぬことはない。

なんで、オレがこんな能力を持ったのかは知らないが・・・まあこれも一種の縁だ。

 

「何か言い残すことはないか?」

 

死人といってもまったくの感情がないわけじゃない。

本来の人格が消えて別の人格が発生する。

生き物とは不思議なもので、なくなったものは代わりのもので補おうとするものなのだ。

現にオレの幻痛ももとも左腕を管理している脳が役目をなくして他の足や顔の筋肉の役目を補うことで発生するのだ。足を切って本来ないはずの腕が痛くなることはこのことに由来している。

 

「う・・・うう・・・・・・」

 

その死人は何か言いたそうだが痛みに負けて声が出ないらしい。

 

「つっ・・・今日はこれが限界か・・・・・」

急にめまいが走る。

幻痛は本来、人間に備わってないものなので脳への疲労が激しく増えるのだ。

ましてや幻腕など作ってしまっては精神力の面でもガタが来てしまう。

 

「・・・・・まあこの死人も何も出来ないからここで交代してもかまわない・・・か」

 

意識が遠のく

世界がま・・・・わ・・・てみえた・・・・・・

 

 

 

 

「はっ、ここは・・・・・」

目を覚ますとまた違う路地に来ていた。

頭のほうにはやわらかい感触がする。

それは冷たくて、とても気持ちよいものではなかったが、なぜか落ち着いた。

 

「・・・・・おきた・・・・・・?」

 

横から顔が出る。

 

「あ、はい。」

まだ覚醒しきっていない頭をフルに使いって返事を出す。

何が起こっているのかいまだに理解できない。

 

えと、いつの間にか夜になってて・・・

気がついたら女性が死んでいて・・・・

それが・・・・・

 

ん?

 

女性?

 

ついさっきまでのことを思い出して飛び起きる。

 

「え?ここは?あれ?」

「・・・・・?」

 

どうやら知らない女性に膝枕されていたようだ。

女性は僕の言葉の意図が分からず首をかしげている。

 

「・・・・ぐっ・・・・」

 

すると、女性は苦しみ始めた。

胸を押さえて息を荒くしている。

 

「大丈夫ですか!!」

 

僕は駆け寄って背中を支える。するとその冷たい感触にびっくりする。

恐ろしく体温がない。

どうしてこんなに弱っているのか、そして、なぜ僕を看病していたのか?

思いは膨らむばかりだが今はそんなことを言っていられない。

 

「・・・変な人なんですね?」

「え?」

「貴方の敵の私の心配するなんて。」

 

女性は途切れ途切れになりながらも喋った。

変な人?

僕はこの人に面識はない。

なのにこの人は私のことを知っているようだ。

 

「ありがとう、私を殺してくれて・・・・・」

「え?殺すって?」

 

わけが分からない。

殺したといっているが、その人は生きているではないか。

 

「私・・・・記憶の隅で怯えていた。人を殺すことや人の血をすうことが快楽なっていた自分に対して・・・・」

 

何を言っているのだろう?

この人が連続吸血殺人事件の犯人なのだろうか?

そんな風には見えない。

確かに、服や顔には血がついているのだが・・・・・

 

「いけないことと知っていながら、人を殺して血をすっていた。だって、吸わないと私死んじゃうもん。」

 

まるで吸血鬼のようなことを言う。

吸血鬼とはおとぎの話ではないのか?

腕に抱かれた女性が嘘をついているとは思えないが、これが本当のこととは思えない。

 

「あの・・・・貴方が連続吸血殺人事件の犯人なのですか?」

 

わけが分からないなりに考えてこの結論に当たった。

 

「・・・・・はい・・・とはいえないかな。私も吸血鬼に吸われて吸血鬼になったから・・・・私を殺してもこの事件はなくならないよ。」

 

・・・・・・・吸血鬼はいない。

しかし、今の事柄を考えると吸血鬼がいてもおかしくないことになってしまう。

これが悪い夢ならば覚めて欲しい。

 

「大丈夫。今の私は吸血鬼の頃の私は死んでるから。血は吸わないよ。」

 

ニコッと笑って答える。

その笑顔が

さびしくて。

つなくて。

つらくて。

泣き出しそうで。

 

全ての理をしっているようで。

 

悲しくなった。

 

「なんで・・・・また、人を殺さないといけないんだ!!」

「ぼくは・・・・・なんで・・・・・・・・」

 

涙ながらに叫んでいた。

やってしまったものは元には戻らないが、自分の記憶にないものはどうすればいいのか?

 

「・・・・いいや、貴方は人を殺してなんかいない。死人を死へと導いただけ。」

「でも・・・・僕は貴方を・・・殺したんですよ!」

「私はもう人間じゃない。人間として生きれない。だから貴方は悪くない。」

 

女性はまったく悪くないような口調で僕に語りかけるが、人を殺しておいて罪がなくなるわけがない。

 

サァァァァァ

 

と、

それは訪れた。

 

「・・・・死期がきたようね・・・・・ありがとう、人間として最後を終わらせてくれて・・・」

 

足から灰になっていく。

 

「そんな!貴方は・・・本当に?」

「吸血鬼だから殺したんでしょ?貴方は。」

 

そういって灰になって空を舞っていった。

空には曇りのない夜空が広がっていた。

ひときわきれいに月が輝いていた。

 

 

―――ああ、あんなに月はきれいなのに―――

 

 

何に悲しかったのかは分からない。

でも、泣いていた。

人を殺したことに対してではなかった。

切なくて。

悲しくて。

はかなくて。

辛くて。

苦しくて。

 

世界が悲しかった。

こんな不条理通じても良いのだろうか?

何が現実で何が幻想か区別がつかない。

吸血鬼は本当にいる?

とりあえず、家に帰って部屋にこもろう。

ここにいてはまた人を殺しそうだ。

とりあえず。

だ・・・

歩かないと

・・・・・・・

思うように歩けない。

体中が疲労している。

プールの後のような筋肉が張ったような感じだ。

強弱の利かないこの筋肉ががくがく震えている。

まるで案山子(かかし)になったようだ。

 

コツコツコツ

コツコツコツ

 

なるべく何も考えないで歩いた。

今は何も考えたくない。

僕は殺人を犯した。

二人もの女性を殺してしまった。

 

コツコツコツ

 

静かな夜。

時間は・・・・・深夜0時だろうか。

一歩繁華街から外に出てしまうと、街灯もまばらになってしまい漆黒の暗闇が自分を包む。

 

コツコツコツ

 

もうそろそろ自分の家に着くだろうか。

距離に直して100Mくらいか?

その距離がとても長く感じる。

目の前に家は見える。けど、遠く感じる。

近いのに遠い。

気が遠くなりそうだ。

 

「はぁ・・・・なんでこんな事になってしまったのだろうか?」

愚痴りながら家の前に立つ。

大きな門がこっちにくるな、っていっているように見える。

横のインターホンをためらいながら押す。

 

ビンポーン

 

おなじみの電子音が響く。

 

「あっハイ、どなたですかぁ?」

「あの、矢希です。」

「わかりました〜、今すぐロックをはずしますね。」

 

インターホンから明るい女性の声が響く

ガチャリ・・・・・

ギギギ・・・・

 

ドアのロックが自動で開いて少しだけ扉がひらく。

僕の家は世間的に見ると大豪邸にあたるらしい。

200坪の土地に鉄筋コンクリートの建物。

父の趣味で作られた大きな鯉のいる池。

 

「おかえりなさいませ、矢希様。」

 

その女性は明るい笑顔で僕を出迎えてくれた。

女性は僕の家に住み込む家政婦さんだ。名前は青玉といって親子で家政婦さんをしていて僕が幼いころからいたのを覚えている。

「ああ、ただいま。ごめんね、遅くなったりして・・・」

「え?いま、遅いですか?」

青玉さんはビックリしたような顔をしてこちらを見る。

「あれ・・・・いま、夜中だよね?」

青玉さんは目を丸くしてこちらを見る。なんというか、年の割には子供っぽい人だ。

「いいえ、今は午前8時ですよ?」

驚いた、まだ10時を超えてもいなかったのか。普段から時計や携帯電話を持たない生活をしているせいか、人より時間感覚が曖昧になっているところもあるが・・・

「でも、どうしたんですか?なにか顔色が悪いですよ。」

青玉さんが覗き込む。

「え・・・・・あ、うん・・・・」

あいまいな返事をする。あのことは話したくない。

思い出しただけでも吐き気がする。

 

血のにおい。血のにおい。血のにおい。血のにおい。

血のにおい。血のにおい。血のにおい。血のにおい。

血のにおい。血のにおい。血のにおい。血のにおい。

 

たのむ、思い出さないでくれ。

必死にさっきまで起きたことを忘れようとする。

しかし

忘れようとするたびに

 

鮮明に思い出してしまい。

違うことを考えようとすればするほど

 

感触が戻ってしまい。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

口から酸っぱいどろっとした液体が吐き出される。

たのむ

 

ドクン

 

だから

 

ドクン

 

「だっ、大丈夫ですか!!!」

よろりと崩れるからだを青玉さんが支えてくれた。

「・・・・大丈夫じゃないようだ・・・・・・ごめん。」

ハァハァと肺が壊れるような息を吐き出している。

 

「・・・・・・・わけは聞きませんけど、今日は寝てもらいます。」

 

うんと返事をする。どちらにしろ動ける気力がなかったので、素直に従う以外ない。

 

「僕は・・・僕は・・・取り返しのつかないことをしてしまった。絶対に許されることのない過ちを・・・・わぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・」

 

ふっと緊張の糸が切れてしまい青玉さんにすがり付いてしまった。

この人はいつも優しかった。間違いを犯したときは厳しく怒ってくれたが、それでも菅生優しいひとだった。親がいない僕をこうやってまともな人間として成長できたのも、この人の存在があったからに違いない。

 

「・・・・・・本人がそう分かっているなら、大丈夫ですよ。」

「でも、僕は・・・僕は・・・人間としてやってはいけないことをやってしまったんです。」

 

詳しくは言えなかった。この人に言っても解決できる問題ではなかったし、これ以上この人の心配事を増やしたくなかったのだ。

 

「・・・・・・そうとうひどいことをしたようですね。」

 

それなのにこの人は優しい声で語りかけてくれた。

 

「・・・・矢希さんがそう思っているならまだ大丈夫です。心配なのはその出来事を自分で正当化して悪くないと思ってしまうことです。そうなってしまえば人間として、人として道徳として駄目になってしまいます。」

 

決して責める事もなく。青玉さんは接してくれた。

そして、僕を自分の部屋まで送ってくれた。

 

 

 

「ありがとうございます。」

「いいえ、これがお仕事ですから。」

 

やはり優しい声と笑顔は変えなかった。

 

「今日はゆっくり休んで下さい。今は気持ちが高ぶっていますので何を考えても悪い方向に行ってしまいます。とりあえず、落ち着くことです。」

「はい、分かりました。・・・・・いずれかは皆に説明します。それまで待っていてもらえませんか。」

「はい、期待せずに待ってますね。」

 

それから、一礼して部屋を出て行った。

 

「・・・・・・・・はぁ」

 

疲れた。

精神も肉体的にも

ベッドに飛びつくと石の様に動かなくなった。

 

「これからどうしよう。」

 

明日か明後日には警察の厄介になっているだろう。

・・・・妹の春歌にも謝らないとな

いや、必死に僕を止めようとするかもしれない。

そうなったら説得も必要か

後野家にも傷がつくだろうから、名前も変えないと

 

遠野・・・・

これはダメだ。たしか隣町の富豪の名前だったかな。

たしか、小さいときに何かのパーティのときに出席した覚えがある。

その時の・・・・・黒い長い髪の毛の子に引かれたっけ。

秋・・・・・・

秋・・・・・歌?

 

なんかちがうな。

 

でも、あそこの家って何か変な雰囲気を感じたんだよ

上手く表せないけど、近寄りがたい雰囲気があったな

多分昔からの貴族だったから規律が厳しくて自分には合わなかったんだろう

そのパーティの数日後に僕は腕を失ったんだっけ?

その時生きていたお父さんに誘われて会社に行ったんだ

当時としては超高層ビルだった50階建ての自社ビル。

あの日はとても風が強かった。

僕は無理を言って屋上に連れて行ってもらった。

そこから見る眺めは絶景だった。

駅前で一番高かったのはこのビルしかなかったので遠くの山まではっきり見えた。

すぐそばに太陽と空が合ったような感じさえした。

 

その時だった。

 

風速40メートルの風が吹いて僕の体は中を舞った。

 

そこからは覚えていない。

 

気がつくと病院にいて左腕を失っていた。

医者は生きているのが不思議なくらいといっていた。

どうやら、50階の建物から1階まで落ちたらしい。

 

ズキン

 

そんなことを考えていたら小さな幻痛が走った。

この幻痛という物は、自分が悲しくなったり恐怖を感じたりと、負の気持ちになったときにい多いらしい。

 

「・・・・・・・あれから8年か・・・・・」

8年前に生活が変わってしまった。

両親は死んでしまい。

僕は腕を失い。

春歌は僕に甘えるようになってしまった。

 

「最悪な兄貴だな・・・・」

 

そう、誰一人として幸せに出来ない。

皆を幸せに出来るとは自惚れていないが、特定の一人さえ守れない。

 

明日になれば何かが変われば良いのだが、そんなことあるはずがない。

 

「おちつけっていてもなぁ・・・・・」

 

まあ、十分今も落ち着いているが、胸の騒ぎは収まらない。

考えても何も始まらないと思いそれから目をつぶって寝た。

 

 

 

 

「矢希さん、起きてください。」

意識の遠くで声がする。

「朝です。起きてください。」

その声は夢から僕を目覚めさせてくれた。

「ん・・・・・おはよう。」

「おはようございます。矢希さん。」

いつもと変わらない朝。

いつもと同じように紅玉さんが起こしに来てくれた。

「昨日は母から聞きました・・・・・・大丈夫ですか?」

昨日のこと?

・・・・・・・・

あ。

どうやら、僕が昨日ひどい事になっていたことはもう伝わっていたようだ。

「うん。何とか落ち着いたよ。」

そうですか。と紅玉さんは言って笑顔を作る。

こうやって心配してくれるのは嬉しかった。

「では、お着替えを済ませてダイニングにおこしください。」

すっと一礼をして僕の部屋から消えていった。

今日も晴天で雲一つない青空だ。

 

 

「春歌おはよう。」

ダイニングに向かうと春歌がもう座って待っていた。

「お兄ちゃん・・・・・大丈夫ですか?」

心配そうに兄貴の様子を伺う。

「ああ、大丈夫だよ。寝たら収まったよ。」

完全には収まっていないのだが、昨日よりは良くなったほうであり、もっとも春歌だけには心配をかけたくないというのが心情だった。

「・・・・ほんとう?」

親がいなくなって以来、春歌は超がつくほどに甘えん坊になった気がする。

「ああ、心配かけた。」

「さてさて、ご飯ですよ〜」

青玉さんがお玉とフライパンを持ってやってきた。

・・・・・それ、料理で使った奴ですよね。

なんというか、いつもはしっかりした青玉さんもたまに茶目っ気のある行動をしてくれる。

ベチャッ!

あ、フライパンについていたスクランブルエッグの残りが青玉さんの頭に乗った。

「あわわわわわわわっ!」

青玉さんは熱いのとびっくりしたせいか取り乱している。

そんなことをするもんだから

 

ベチャッ!

 

「あちちぃ!!!」

 

案の定、僕の顔にヒットする。

「大丈夫!お兄ちゃん!青玉さん!!」

おろおろする春歌。

「ちょ、お母さんなにやってるの!」

騒ぎを聞きつけた紅玉さんがキッチンからやってきた。

今ここで展開されているのは、

お玉とフライパンをもって暴れている青玉さんと、

顔についた卵をとろうとしていたら足がもつれてしりもちをついている後野矢希に、

その横でおろおろしている春歌。

 

朝から何やっているんだ・・・・・

 

 

 

「本当に申し訳ありません。」

深々と頭を下げる紅玉さん。

「いいや、別に気にしてませんよ。」

どちらかというと刺激的な朝を送らせてくれて感謝するべきか。

大変だとは思うけどこれが辛いとかうっとうしいとは思ったことはないし。

「ごめんなさいぃ・・・・・・」

青玉さんは親に叱られたようにしょんぼりしてた。

・・・・・この人たしか3●歳だよなぁ・・・・

と心の中で思ったりもしたり・・・

そりゃ心も若い方が良いに決まっているだろうが、紅玉さんは僕と同い年であり、その母なのだ。年による成長というものも少しぐらいはあっても良いようなものなのだが。

「まあ紅玉さん、そんなに青玉さんを怒らないで。」

春歌が青玉さんに味方する。

「大事に至ったわけじゃないんだし気にしなくていいよ。」

「そういってもらえると救われます。」

朝からドタバタな時間をすごすことになった。

 

 

今日は日曜日ということもありご飯を食べてゆっくりしていた。

テレビでは相変わらずつまらないニュースをやっていた。

ニュースキャスターの平坦な口調はどんな凶悪な事件も平坦化させるような感じがした。

 

「昨日深夜0時から2時にかけて六散町で死亡したと思われる、2人もの女性の死体が発見されました。」

 

ドクン!

 

「がぁぁぁ・・・・」

 

胸が急に苦しくなる。

テレビに表示されている場所はまさしく僕が殺した場所だった。

 

「この事件と三咲町の連続吸血殺人事件とは関与がないと警察関係者は語り、因果関係を事故、事件の両方から捜査中との事です。」

 

・・・・僕がやったものだ・・・・・

寒気が走る。

「お兄ちゃん!?」

異変に気づいた春歌が抱くようにして起き上がらす。

「・・・・はぁはぁ・・・・・はぁ」

だめだ、これ以上隠しておくと自分が壊れそうになる。

 

「ああ、ありがとう。ちょっと出かけてくる。」

「え・・・・でも・・・・」

 

「女性の死因は自然死とされ、事件性は少ないと考えていますが、警察はさらに追及をするということです。」

 

春歌の顔を見ないようにして外に飛び出した。

「あ、矢希さん!!」

途中で青玉さんにも声をかけられたがそれも無視して外に出た。

 

 

行くところは決まっている。

警察だ。

だたし自首するために行くのではない。

正確な情報が欲しかったのだ。

ニュースでは自然死となっていたが、本当にそうならば僕は殺していないことになる。

信号も無視して警察署に向かった。

息が切れてばてそうにもなったが、それどころではなかった。

死体に僕の指紋があればその時点で僕は捕まるだろう。

それでも良かった。

殺してしまったならその罪を償うだけなんだ。

 

「殺してくれてありがとう・・・」

 

死ぬ名際に彼女はそういった。

自分は人間になれないから死ぬしか逃げる方法はなかった。そういうことなんだと思う。

しかし、人間以外のものはこの世にいるのだろうか?

いたとしても、それはもう公になっていて僕達が知らないなんてことはないはずだ。

今の情報技術は世間が思ったよりはるかに進んでいる。

アメリカが宇宙人とコンタクトしたことも公になった。

そう、エリア51だ。

一応僕の・・・親の会社は情報関係の仕事をしている。

情報とは思わぬところでいろんな物が飛び出すことがある

エリア51に未知の生物の研究する施設があるのは確かのようで、前にこれについて調べていたらアメリカの警察がこちらに来たという過去もあった。

そのときは何もおとがめなかったが、

 

「このことは家族にも親戚にも言ってはいけない。」

 

と念を押された。

しかし、この時もひっかがっていたのが宇宙人ではなく未知の生物の研究所だったこと。

その時はあまり深く考えていなかったのだが、宇宙人が何億光年も離れた場所に生きたままこれるとは思わない。1光年ですら一つの生命は生き続けた事がないのだ。

恐竜だって5000年あまりで全滅した。

となると、地球上の未知の生物?

未知の生物を隠して研究する意味などあるのだろうか?

・・・・・・

まさか、吸血鬼?

・・・・・・

でも、吸血鬼なら不老不死の能力もある。

それだけで十分研究材料になるのではないのだろうか?

・・・・・・

 

「私・・・吸血鬼に吸われて・・・・」

 

・・・・・・・

まさかね。

吸血鬼なんかいたらこんな町すぐにでも吸血鬼だらけになってしまい、いやでも気づくだろう。

 

しかし、事実とは反してこうなると辻褄が合う。

この世界はファンタジーによって形成されているのだろうか?

 

 

ドクン!!!

 

警察署が見えたときに大きな心臓の高鳴りが起きた。

「はっはっはっ・・・・」

警察署の前で立ち止まり息を整える。

「・・・・・・・・・・」

・・・何かに見られている?

そんな感覚がする。

「大丈夫か?」

気がつくと玄関の前に立っていた警察官に声をかけられていた。

「あ、はい、ちょっと走りすぎてめまいがしただけです。」

「はは、警察署に急ぐ人なんて滅多に見ないぞ。」

すると、

「あ、後野君じゃないですか?どうしたんですか警察署で?」

後ろから明るい声が聞こえた。

「ニアさん・・・・・なんでここに?」

振り返るとぶんぶん手を振ってこちらに呼びかけているニアさんがいた。

「え・・私は昨日起きた事件での事情聴取です。」

事情聴取?

まさかニアさんが悪いことでもしたのか?

「あっ、私がなにか悪いことをしたと思っているでしょ?」

黙っていた僕を見て鋭い一言が返ってきた。

間違っていなかったので、コクっとうなずいた。

「・・・ひどいです。私そんな風に見えますか?」

ぷい、と顔をどこかに向けて怒ってしまう。

それは怒っているというかすねている様に見える。

「いや・・・でも何で警察に?」

ニアさんはそのままの格好で

「昨日この町で死んでしまった人の友達だったので、詳しい話を聞かせてくれと警察から連絡か来たんですよ。」

ああ、その事情聴取か、犯人側の事情聴取ではなく遺族側の事情聴取ということらしい。

「でも、後野君は何で警察署に?だめですよ〜、いくらほしいものがあってもお金を払って買わないと〜!!!」

なんか、勝手に万引きをして警察に捕まった人になってしまったようだ。

「ちがいますよ!今日、ニュースで2人の女性が自然死しましたよね、その女性に心当たりがあったので・・・・・それで警察に確かめに行こうと思いまして・・・・」

するとニアさんはあっ、言う顔になりすぐに笑顔になった。

「そうだったのですか、じゃあ私達いっしょですね。でも、悲しいですよね・・・・知人が亡くなってしまうことは・・・・」

「はい・・・・・」

僕の胸は二つの罪で凄く痛かった。

まず、人を殺したこと。

そして、ニアさんに嘘をついたこと。

取りあえず警察の話を聞いてからだ。

自分の知っている事実と警察の言っていることには幾つか矛盾点が合ったりするから。

 

 

 

案の定、警察の話したことは自分の事実と違っていた。

まず、僕が彼女達を殺したのは8時より前のこと、しかし警察の死亡解剖によると深夜0時から2時にかけて死んでいったとされていること。

彼女達にはいたるところに血がついていたのだがそれがなかったこと。

さらには、彼女達の死因が「心臓発作による自然死」ということ。薬や外傷がまったく発見されていなかったらしい。

 

このことから警察は事件の関係は薄いと考えているらしい。

 

「あの、彼女達からは僕の指紋は出てこなかったのですか?」

「いいや、君の指紋は服も皮膚、髪の毛からも出てこなかったよ?本当に、夜に出会ったのかね?」

 

しかも、他に事情聴取に来ていた人たちも僕のことは見ていないと口をそろえていっていた。

 

「おかしいな・・・・・確かに8時前に会ったはずなのに・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

「しかし、出ていないものを出すわけにも行かないしね・・・・家にも確認したけど、深夜0時から2時までは家にいたという確認も取れたんだ。もしかしたら、8時にも彼女達はそこにいたのかもしれないな。」

まあ、それが妥当なのだろう。

死後硬直から今の技術だと正確な死亡時間を割り出すことが出来る。

警察が間違った情報を流すはずもない。

かといって、自分の記憶が嘘のわけがないのだが・・・・・

 

「・・・・・・・・・」

 

なんか、目線を感じる。

ここは会議室みたいなところであり、警察から呼ばれたもの、事件を知ってきた遺族や友人等が集められている。ここで、僕を知っている人は一人しかいない。

 

「あの、ニアさんなんでしょうか?」

その声に我に返ったのか、ニアさんはびっくりして反応した。

「えっ・・・いや・・・なんでもないテですよ。ちょっと後野君の話が興味深かったので。」

そういえば、この人と僕以外うつむいて他人の顔さえ見ていない。

悲しみに狩られて泣いているのだろう。

ニアさんって以外に薄情な人なのかな?

・・・・・いや、僕みたいにたまたま昨日であったから、かもしれない・・・・

そんなことないか。

死んでいたときの写真を見たときにワンワン泣いていたよな。

何でこんなこと忘れたのだろう。

最近のことだったのに・・・・

 

僕は昨日の出来事を言えずに返されてしまった。

 

「・・・・・・・どうしよう。」

 

自分は人を殺した。でも世間はそれを否定した。

いや、自分のあの場にいた限りでは人を殺せないのである。

写真を見たときの違和感。

彼女達は灰になって消えたはずなのに、消えていなかった。

 

「どうしたんですか、帰らないのですか?」

後ろから声がする。ニアさんの声だった。

「いえ・・・・人の死って複雑なんだな・・・と思いまして・・・」

複雑になってしまったのは自分のせいであるが。

「・・・・・・まあ、何があったのかは知りませんが、私は貴方の味方ですよ。」

ポンポンと頭をなでてくれた。

ニアさんは僕の家の近所に住んでいるお姉さんだ。

親元を離れて一人でアパートを借りて住んでいるらしい。

近所では評判の美少女らしく、彼女の郵便受けにはかならず1通以上のラブレターが入っているらしい。

仕事は詳しくは教えてくれなかったが、教会のお仕事をしているといっていた。多分シスターなんだろうと勝手に予想した。

「でも、今日は大変でしたね。」

「はい、まあ事件とは関係ないということでほっとしました。」

自然と一緒に帰っていた。

ニアさんといると自然と心が休まる感じがした。

 

警察署から家に戻るには駅前の大通りを通る必要がある。

駅前の大通りには父の会社があり人通りも多かった。

三咲町よりは少ないがここも昼夜とわず人の往来が激しい。

「ここのパフェおいしいんですよ。」

「へえ、そうなんですか?」

帰る道、同級生みたいな会話をして

「私、学生時代勉強詰めであまり外に出たことないんですよ。だから、こういう食べ歩き、とか興味ありまして・・・」

「あ〜ニアさんは頭よさそうだもんなぁ、僕なんて勉強そっちのけで遊んでるよ。」

そういえば、ニアさんって何歳なんだろう。

そう、年は離れていないようだけど・・・・・

「・・・・・・・」

「え?はい?」

「私、何歳に見えます?」

この人はテレパシーがつかえるのだろうか?

なんで、疑問に思ったことがこうズバズバ分かってしまうのだろう・・・・

「え・・・いきなり言われると・・・・・」

年的には僕の2、3こ上ぐらいだろうが、高校や大学にも行っていないということから25以上だろうか?

「・・・・・・・27ですか?」

その言葉を聞いた瞬間、悲しそうな顔を一瞬見せて怒り始める。

「・・・・ひどい、ひどいですよ。私、後野君と同い年なんですよっ!」

ぷんぷん、という言葉がつきそうな感じの怒り方だった。つまり、迫力に欠ける怒り方ということだ。

「同い年って・・・・・じゅ、17ぁぁぁ!!」

えっへん。と胸を張ってニアさんは笑う。

意外と言うか、なんというか。

てっきりお姉さんだと思っていたニアさんは同い年だとは。

しかし、そうなると高校はいいのだろうか?

「あの、高校は・・・・・?」

「あ、私は教会の子供ですから高校に行かせてもらえないんです。中学校終わってから色々と教会で教わることがありまして・・・・」

まあ、世界で知れ渡っている教会の者だから、小さいときから教わることも多いのだろう。

「じゃ、私はここで・・・」

丁度大通りの交差点に差し掛かったときニアさんは用があるということで分かれた。

「帰り道、たのしかったです。」

「いえ、こちらこそ。」

いつの間にか自分が人を殺したことの不安を吹き飛ばしてくれた。

ニアさんは丁寧なお辞儀をして交差点から消えた。